求めれば、打ちのめされ


 大体何をして良いのかが解らない。

 何かをしろ、何かをしたい、しっかりしろ、しっかりしたい。

 求めれば、欲すれば、夢を追え、現実を見ろ、一生懸命やれ。

 何をやれ、これをやれ、あれをやれ、それをやれ。

 しかしそれは一体何なのだ。我々は一体何に追い回されているのだろう。

 背後にまとわり付くように、あの梅雨時のじめじめした気候のように、付かず離れず、決して晴れはし

ない何かに追われている。

 お前は何を言っているのだ。

 何をせよと言うのだ。

 私に何をしろと言っている。

 必要だから、生きる為に。確かにそうだ。そうかもしれない。しかしそんな陳腐な台詞だけで済ませら

れる程、我々の心は簡略さを求めていない。もっと具体的なものが欲しい。

 でも一体何がしたいのかなんて、そんなもの、何処の誰が解るのだろう。

 皆結果としてはそれを追い求めている、そうなっている。それだけで、でもだからこそ不満なのかもし

れない。受け容れた筈の道でも、何かが嫌だ。

 求めたからこそ、今があるのだとしても、聞きたいのはそんな事じゃない。

 ならば聞くか。もっと深く聞くのか。

 求めれば導かれ、欲すれば辿り着き。

 それが人間というものならば、それが人間というものだ。

 それを説明しろと言うんだな。

 そんな無謀な事を。お前に出来ない事を私にしろと、こう言うのだな。

 解った。ならばしてやろう。お前の望むようにしてやろうじゃないか。

 だから文句は言うな。苦情は一切聞かん。

 何を言っても、黙って聞け。

 それが駄目だと言うのなら、初めから他人になど頼るな、自分で見つけろ。文句を言うような権利は、

初めから放棄しているのだと、素直に納得してからこれを読め。

 苦情を言うくらいならば、今すぐにここから引き返せ。

 私は言う。ここで引き返さず、途上で引き返すような事になったなら、きっとお前は後悔するだろうと。

 大体その性根が気にくわない。

 自分が解らないから、人に教えてもらおうなどと、なんて厚かましい心だ。

 ならばお前は誰かに教えた事があるのか。人に感謝され、優遇されるのに相応しい人間なのか。お前は

そんなに特別な人間か。敬意を受けるべき人間なのか。今一度考えてみる事を提案する。

 お前は何なのだ。そう、人間だ。いや違う、そういう事じゃない。ならどういう事かって。それが解ら

ないから困っているんじゃないか。

 察しろ。空気を読め。場の雰囲気に適合しろ。和だ。日本人の心だ。大和魂だ。大いなる和だ。

 それだ。それをしろ。それをしてから聞け。さあ、聞け。

 腹を立てたなら、さっさと帰れ。そう帰れ。それが人間だ。ざまあみろ。



 そもそも何が不満なのだ。不満が無いから不満なのか。

 不満が無いから不満って、一体どういう了見だ、この野郎。

 不満が無いのが幸せではないのか。お前の求めているのはそう言うことだろう。それであるのに、そう

なったらなったで物足りないとはどう云う事だ。

 ああ良いだろう、教えてやろう。

 とっくりと生き様を語ってやろう。

 それはお前自身が物足りないからだ。理想と程遠いからだ。他の何かではない。お前自身が足りないの

だ。だから周囲に不満がなくても、不満に思う。

 当たり前だ。当の本人に不満なのだから、満足できる訳がない。これが答えだ。これしかない。

 ああ、何、そんな事は解ってるだと。お前一体何を言いやがる。だったら初めからそう言え、ここまで

の話が無駄になってしまったじゃないか。一体どれだけの労力がかかると思っているんだ。

 それを当然のようにしてくれると思うお前の性根が気に食わない。糞喰らえ。ああ、本当の意味で、糞

喰らえ。

 ああ、そうか、もっと根本のとこか。言ってる事が解らないか。私の事など、考えなどさっぱり解らな

い、知らないか。そりゃあ知るまいよ、何せ私自身も知らないのだから、お前が知っている訳が無い。

 じゃあ言うなって。そうだ、それを私は言っているのだ。

 どうだ、解ったか。誰も他人の事など解らんのだ。ざまあみろ。一人ぼっちで生きていけ。

 何、言い過ぎだと。そうかもしれない。

 でもまあ、そこんとこは解ったか。誰もお前の事など知らんのだ。

 うんうん、解ったか。そうかそうか、なら続けよう。

 だから問題はそれをどうするか、どうしてしまうかって事だ。そうそれが問題なんだ。

 考えるべきは行動だ。

 世の中に相談や助言を生業とする者は数あれど、結局何をしろと具体的な事は何も言わない。何故なら、

外れるのが怖いからだ。

 外れると苦情がくる。それを避ける為、或いは苦情がきても何となく言い逃れできるように、ぼんやり

と抽象的な事に止める、それがプロのテクだ。略してプロテクだ。

 何、略してないって。略したのを繋げただけだって。

 馬鹿め。初めから略してあるのだから、略には変わらんだろう。

 そういうとこだ。そういう融通の利かなさが、あれだ、お前のあれだ。弱点だ。

 まあ、それとして。

 だから奴らは適当にどうにでも受け取れる事を言う。それを言っておけば後でどうにでも言いつくろえ

るという、魔法の言葉を。日本語にはそういう便利な言葉や表現があるのだ。どうだ、まいったか。

 嘘だと思うなら、まあもう一度テレビを見てみろ。テレビの中はそんな言葉で溢れている。だからそん

なものをいくら参考にしても解らないのだ。他人の言葉などに答えは無い。

 まずはそれを頭に叩き込め。

 何故ならば、他人の言葉は結局全てが、自分で答えを見付けろ、作り出せ、とそう言っている。

 答えなど初めから言おうとしていない。無数の言葉の海、富士の樹海よりも尚深いそこには、一片の答

えも無い。そうに違いない。

 人の答えなど他者にある訳がない。答えはいつも自分にある。喜びも苦しみも自分にある。だからこそ、

人生に意味があるのだ。多分な。

 そんな事は考えれば解る事だろう。それこそが天上天下唯我独尊。全ては己の中に内包されるという、

ありがたいお言葉だ。多分な。

 解っただろう。いや、そうだろう、解る訳がないわな。

 だから空気を読め、大和だ、大和魂だ。納得しておけば、それなりに気分が良かったりする。何となく

解った気になれ、考えるな、皆そうして生きているのだ。答えなんか誰も知るか。なんとなくだ、何とな

く。いいか、解ったか。くれぐれもそれを覚えとけ。

 つまりはそう言うことだ。

 うるさい、自分で見付けろ、そんなもん。

 俺の知った事か。



 大体人に教えてもらおうなんて了見が甘すぎると、さっきから言っているはずだ。

 そんな甘っちょろい感情で、人の世が渡っていけるなら、お前はもうとっくに幸せになっている。

 そうでないから、皆詰まらなそうな顔をして、どこまでもどこまでも苦しそうに歩いている。お前もま

たそうだ。そうなのだ。そうなのか。

 それが人間だと言われればそうなのか、うん、いやしかし決してそうじゃない。

 ようするに馬鹿になる事が必要だ。

 味の違いが解る人間よりも、何を食っても美味いと思える方が、そりゃあ幸せに決まってる。その精神

だ。くれぐれもそうだ。

 分際を知れ。お前程度の人間が、突拍子も無い幸福を望むんじゃない。

 家を見ろ。内も見ろ。

 不幸だらけだと言うのなら、何故お前は生きているのだ。今生きている、それが幸福、或いは幸福であ

った証ではないのか。

 これでも不幸だというのか。では何が不幸なのか。

 原因があるはずだ。あったはずだ。

 認めたくなくても、それを認めろ。考えろ、考えろ。

 人はいずれ解る事は初めから解っているのだ。お前は解っていないふりをしているだけだ。

 だからなんだって。別にどうにもなりゃあしないよ。

 でもそのままではどうにもならないからこそ、悪いといえば悪い。

 何が悪いのかって言うと、違法だの何だのではなく。ようするにお前の望むようにはならない。だから

悪い。これが一番悪い。

 しかもその事を知っている。知っててやっている。だから尚更悪い。

 誰でも知っているはずだ。救いなどなくとも、救われなくても、自分で救う道はどこにでも転がってい

る事を。

 それを見付けるのが面倒だというなら、とっとと諦めろ。

 嫌なら生きるのも止めてしまえ。

 そこまでしたくないのなら、ちょっとだけ頑張ってみろ。

 結局自分がそうしなかったせいだって、誰だって解っているんだ。口にしないだけで。

 何を偉そうに言ってるかって、お前が聞いてるんじゃないか。もう忘れたのか、馬鹿やろう。

 そういうとこだ。お前のそういうとこだぞ、この野郎。



 いや違う、こんな事をしている場合じゃない。

 何をして良いのかが解らない。そうだ、元々その話だったはずだ。

 それをごちゃごちゃ言いやがって。おかげでこの様だ。

 お前が反らしたんだ。何と言う大罪を犯すのか。お前は怖ろしくないのか。ああそうか、そうだな。別

段どうでも良いか。よしよし、ならばよし。確かに大した事じゃない。

 話を戻そう。

 何をして良いのか解らない。これはつまり、何をしても良いって事なんじゃないだろうか。

 ありきたりな答えだと、当たり前だ。ここで人に解らないような小難しい話しをして、一体それに何の

意味がある。結局解らないじゃないか。だから解るようなありきたりな言葉でいいのだ。

 解る事、解る言葉、これが大事だ、馬鹿野郎。

 いや違う。ちょっと口が滑っただけだ。

 なにおう、だから文句は言うなと、初めに断ったじゃないか。

 ああ、もういい。もういいよ。お前がそんな了見なら、もうとんでもない事をしてやろう。

 これから五十ページばかし、無言と点々で埋めてやるよ。

 それが希望なんだろ。斬新とでも言って、勝手に瞑想してろ。五十ページも無駄な労力を使え。様を見

ろ。それがお前の運命だ。

 そうか、悔いたか。ならばよし。

 止めておいてやろう。

 そもそも私は無駄というものが嫌いなんだが。昨今の風潮はそこに根ざしているのかもしれないな。

 効率効率公立、最後のはちょっとした冗談としても、本当に気持ち悪いくらい、効率的だの、効率が良

いだのいう言葉を聞く。流行なのか。え、流行ってるのか。

 しかし人生にそんなものが必要なのかね。

 確かに会社には必要だろう。金儲けの妙はそこにあると言ってもいい。

 だが無駄を省く事が効率的という意味なら、一番そうでなければならない所がいい加減で、どうでも良

い所ばかりにこだわっているような気もする。

 だからいつも大して効果がないし。その事に対しての不満も尽きない。

 しかもそうして追い立てているのは、自分自身なんだ。これはもう逆効果も甚だしい。

 つまり自分が自分で……、何飽きてきただと。何て奴だ。ああそうだ、確かに文句は言うなとは言った

が、飽きてはいけないとは言っていない。

 考えたな、ちきしょうめ。

 お前、そういう抜け穴を探るような事をするから、世の中がいつまでたってもよくならないんだぞ。

 その腐った胸に刻み込め。そして崩壊しろ。砕けて散れ。

 しかしまあ飽きるのはどうしようもないな。よしよし、ならば趣向を変えよう。



 むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが……、うるさいな。ありきたりな方が解りやすいだ

ろうが。そんないっつも新しいだの、面白いだの、都合よく生まれてくる訳が無いだろ。

 人間の世界はな。そんなに面白おかしい物じゃないんだ。常に飽きて、常に色あせる。そんなもんだ。

覚えとけ。

 いいからもう黙って聞け、黙って聞け。自己暗示をかけろ、勝手に楽しめ、むしろ楽しませろ。

 だがまあその言い分も尤もかもしれないな。

 よしよし、なら遥かな未来に、いややっぱりここは昔々だろう。よし、昔々さる所に、一匹の猿がおり

ました。

 その猿はいつも小奇麗にしていて、それでいて何かしらの興味をいつも外に払っていて、ようするにと

ても用心深かったのです。

 猿は一本の木を中心に、往復一日分の距離を自分の縄張りとしております。

 毎日木に登り、木から木へ渡り、喧嘩をして、喧嘩をする相手もなくて、とりあえず食べては生きてお

りました。

 しかしある時、猿は考えました。もし一日に移動できる距離が増えれば、その分縄張りが大きくなって、

もっと良い暮らしが出来るのではないかと。

 これは名案だと、早速腕を鍛え、足腰も鍛え、必死になって移動距離を延ばしたのです、現実的に。

 こうして猿の縄張りはどんどん増え、嬉しくなった猿はもっともっとと先を目指します。

 でも猿はいい加減疲れてもいました。移動するのは良いのですが、縄張りがこうも広くなると見回りも

大変で、端へ行くだけで一日が終わってしまいそうな勢いです。

 現に端まで行くと疲れてしまって、帰る気力も湧きません。

 そこで猿は片道一日分の距離を、縄張りとする事に変更しました。

 しかしこうなると、単純に今までの倍の広さになってしまいます。

 猿は必死でした。必死になって移動しました。最早何の為にそうしていたのかも思い出せません。

 ただ必死に動き、もっと速く、もっと先へと、死ぬような思いをして進みます。

 そしてそんな事をしているうちに、とうとう猿は食べる事も寝る事も休む事さえ忘れ、移動の途上で死

んでしまったのです。

 一人ぼっちの骸は、とっても哀しそうに土に還りましたとさ。



 何だその顔は。良い話じゃないか。付け焼刃にしては、何とか形になって立派なものだと思う。

 お前こんなにさっぱりしてて、その上為になるような話なんて、他には落語くらいしかないぞ。

 よく考えてみろ、昔々お前が小学校時代に読書感想文でなんと言われたか。

 多分あれで本を読むのが嫌いになるんだな。とっても面倒くさい。

 大体原稿用紙何枚って、そんな感想抱く程、いちいち考えて読めるか。

 面白かった、つまらなかった、その二択で良いと思う。

 それから少しずつ増やしていって、どう思ったのか、どこが面白かった、つまらなかったとか、少しず

つ広げていけばいいと思う。

 あんな事をしているから、皆嫌いになるんだ。

 今でも原稿用紙を見ると、色々と嫌な事を思い出す。

 お前、考えてみろ。小さい時の経験が一生のトラウマになるっていうのに、あのやり方はどうなんだ。

 え、言ってみろ。

 いかにも杓子定規で、官僚らしいやり方じゃないか。

 そんなんで伸び伸びと育つか、あほんだら。

 馬鹿が馬鹿の了見で馬鹿な事をするから馬鹿な事になる。

 これは至極最もな事だと思わないかね。

 ああそうか、話を反らすなと、そう言いたいのだな。

 良いだろう、聞いてやろうじゃないか。

 何、気持ちを相手にどう伝えて言いか解らないだって。小学校の作文からやり直せ、この野郎。



 そもそも道徳教育からして間違っている。

 あれはそうだ。そう礼儀作法。中国の孔子にまでさかのぼり、彼が八つの徳としてまとめ、初めてきち

んと礼儀として整えたのだとかなんとか。

 つまりは自らの良心に従って、昔からあったモノを、ある程度変えたり付け加えたりしながら、形にし

た訳だ。えらいもんだな。こんなくそ面倒くさい事を、やってくれた訳だ。

 でもな、あれも元々人を敬う心こそが大事であって、礼儀作法もそれを表現する為の手段に過ぎない。

つまり芸術だ。自分の心を表現するんだな。そうして相手に気持ちを伝える訳だ。その言動によって。

 だからいくら礼儀に適っていたからって、その人の心に敬意がなければ、何の意味も無い。むしろそん

な事をされると腹が立って仕方が無い筈だ。

 くそ生意気な顔で、なおざりに挨拶されたって、腹立つだけだろ。解ってない奴が多過ぎる。

 うんうん、それそれ。その話だよ。解ってきたじゃないか。

 けれどもそれがな、なぜか形式だけが重要になって、その心を重視しなくなってきている。何でもそう

だ。見かけばかり立派なら、後はどうでもいい。見えないモノはどうでも良くされている。

 それこそが孔子やその教義自体を馬鹿にする事だと、何故誰も言わないんだろうな。

 人に好かれる為に考えているのだから、人に好かれるように使わなければ意味が無いのだと、誰が考え

ても解るのに、誰もそんな事は教えない。

 動物が殺されたり、誰かが苛められたり、そんな話をして可哀想可哀想と教えられる。

 それが道徳と言うのなら、とっくに皆仙人にでもなれている筈だ。

 可哀想だから何なんだ。そう想う事ではなく。そう想ってからどうするかが問題なのに、誰もそれは何

も言わない。

 暴動とか起こしたり、反対運動とかされたら迷惑だからかもな。

 結局、何もするなと教えられている。

 そんなこんなで、いつの間にか何もかもが無意味なモノへと変わっていく。

 ああ、そうさ。ただの言い訳だ。ばれたか。

 まったく妙な所だけ賢くなりやがって。

 そうさ。例え何を教わろうと、社会がどうだろうと、常識がどうだろうと、その人自身がしっかりして

いれば、何も問題は無いのさ。

 そんなこんなで誰かのせいにしてばかりいるから、誰もかれも腐ってしまうんだろうよ。

 解ってるなら初めから聞くんじゃないよ、馬鹿野郎。



 何でそこまで解るのに、お前は何もしないんだ。

 何もしないから、何も満足出来ないんだって、そう言ってるだろうに。

 人に話を聞きに来て、それで何にも聞こうとしないなんて、それじゃあ俺だけが酷い馬鹿じゃないか。

 ああそうか、そうなんだな。お前は人を馬鹿にしにきたんだ。まったく暇な奴だ。

 この世界にはな、そんな暇が無い人の方が、沢山居るんだぞ。それなのにお前と言う奴は、ぬくぬくぬ

くぬく育ちやがって。その空っぽの大きな頭が、どれだけ色んな物を無駄にしているか解っているのか。

 足るを知れ。幸せと思えばそれで幸せだと知れ。

 それだけの事なんだ。実際それだけの事なんだ。

 誰がごちゃごちゃ言ってても、お前はお前でやればいい。寂しいだの、仲間外れだの、そんなくだらな

い事を考えるから、いつまでたっても満たされない。

 お前が満たされる為には、お前自身が満たさないといけない。

 自分でやって自分を満たす。それだけの事だろう。

 何、それはもっともだけど、それが出来ないから困っているって。

 何だと、この野郎。じゃあ、お前は解っていて、今まで私にさんざん語らせたのか。

 え、全部言えばすっきりするだろって。そうか、ありがとう。って、そんなわけがあるかッ!!

 お前の事だろ!



 で、なんだ。ああ、そうか。それをするにはどうするかって話か。

 でもなあ、よくよく考えてみろ。今お前はとても間の抜けた事を言っているんだぞ。

 これをしたいけど、どうすれば良いのって、お前、そうすれば良いに決まってるだろうよ。

 町が汚いならゴミ拾いすれば良いし。明日試験なら、さっさと勉強すれば良い。国が駄目なら政治家目

指せ。マスコミが駄目なら、テレビも新聞も一切取らず、その関係の会社が全部潰れるのを待て。

 人生は戦いだ。そう暇潰しとの戦いだ。

 だからどうすればって、お前、つくづく人の話を聞かない奴だな。もう一度よくよく考えてみろよ。お

前は今、とても失礼な事をしているんだぞ。まあ、いいけどな。もう面倒くさいし、どうでもいいけど。

 まあなんだ、自分を満たすには……、そうだな、何かしたい事ないのか。

 何、それが解れば苦労しないって、確かにそうだ。良い事言った。お前は良い事言った。でも何か腹立

つから殴らせろ。



 ともあれ、あれだ、食う寝る遊ぶだな。取り合えずそれさえしていれば、何とか生きられる。

 衣食住、これがあるなら生きていける。

 後はそうか、心か。ならそうだな、彫刻か焼き物でもしてみるか。何かもう何も考えずに、こう無心に

なって出来る事が、そういうのに良いらしいぞ。

 訳の解らない悩みっていうのは、ようするに頭の使いすぎらしい。だから運動なりなんなり、小難しい

事考えず、一心か無心になって出来る事が、とても良いらしい。

 そうか、運動不足なんだ、お前は。

 よし、走って来い。良いから、走って来い。黙って汗をかけ。



 ああ、そうか、騙されたか。そうだな、私もそんな事じゃないかって、うすうす気付いていたよ。

 そんな話じゃなかったな。運動とか、そんな話じゃなかった。確かにそうだ。

 いや、解った、ごめんごめん。実はまったく気付いていなかったんだ、案外てきとーに言っただけなん

だ。すまんかった。

 でも何がしたいか解らないから、どう満たして良いか解らない、ってそんな事言われても、こっちとし

ても答えようがないんだよ。

 自分自身で解らない事が、他人に解る訳ないだろ。

 何解る人もいるって。馬鹿だな。あれはな、すでに自分が解っていて、その上で誰かに後押しして欲し

いから、そういう風に言うんだよ。気づいて無いふりをして、それを言って欲しいんだな。

 きっかけが欲しいのさ。お前だってそうだろう、でないとこんなとこまでわざわざ来る訳が無い。

 ああ、そうか。後押しして欲しかったのか。これはすまんかった。

 え、何、他にする事が無かったからだって。おとといきやがれ、この野郎!!



 ああ、そうか。タイムマシンが出来たらそうしますって。なるほどね。解ったよ、確かに俺も無理な事

を言った。すまんかった。

 でもな、もう少し言い方に気をつけろ。ものは言い様っていうだろ。取り合えず相手が気分良くなれれ

ば、まあそれで良いんだ。そういう言い方を身に付けろ。形が大事なんだ。

 何、孔子云々と言ってる事が違うって。馬鹿だな、よく考えてみろ、あれはそう言う事なんだ。むしろ

そう言う事にしておけ。人間っていうのはな、日々変わりながら生きている。毎日色んな事を忘れながら

生きているんだ。

 うん、そうだ。何か知らないけど、雄大だ。そんな感じだ。まあ、それで良いだろ。勘弁してくれや。



 それでまあ、結論から言うと。何だって、初めからそれを言ってくれ。馬鹿だな、物事にはな、順序っ

てもんが……、ああ解ってる、難しかったな。こいつはおいちゃんが悪かったよ。

 まあ聞け。

 何を始めたら良いかとか、何がしたいかとか、本当はそんなものはどうでも良いんだ。

 むしろきっかけなんて後付なんだよ。いつの間にかやってたら、何だか知らない内にやりがいが出てき

た。そういうものなんだ。

 だから何をとか、どうしたらとか、そんな事を考える前に、取り合えずやってみれば良いんだよ。文句

はやってから言え。そうすれば具体的に文句が言えるようになるぞ。

 それに何かしていれば、身に付いてくるモノがあるはずだ。そしたらその時に考えればいい。

 面白くなくても、何だか無意味に思えても、取り合えず続けてみろよ。そうしている内に、何かが積み

重なっていって、いつの間にか充実したような気になってくる。それにかけた時間が重みだ。多分な。

 確かにそれが一番かは解らないけれども、自分の人生には何かがあったのだと、そういう自信だけは湧

いてくると思う。

 ならそれで良いじゃないか。

 誰でもそうなんだ。いつの間にか、そうなっていたんだ。一所懸命に考えて、一心不乱にやっている内

に、いつの間にかそうなっていた。

 でもだからこそ、それもまた尊いのだと、そう思う。そんな気もする。

 何、まとめにきてるなって。馬鹿だな、終わりよければ全て良しって言うだろ。何となく上手い事まと

められたら、それで上出来なのさ。

 結局人間は最後の時が一番感慨深いんだから、後はどうとでもなるって事よ。だから良いんだ。過程な

んて気にせず、とにかく何でもやって、そして続けてみろ。

 そうしていれば、得る物があるだろう。

 ま、失う物も、多いだろうがな。

 そこまでは面倒みれない。

 全部自分でやるしかないって事さ。どんなに考えても、そこに行き着くしかないのだから、まあ、私も

そこまでの人間だ。平凡な人間だ。そんな人間に相談した所から、まあ諦めてくれ。

 この程度の答えが、凡人には限界なんだろうよ。

 そして限界って事は、一番頑張ったって事だ。

 ならばよし。そう思え。

 それが幸せだ。知らんけどな。



 よしよし、これで話は終わりだ。もう帰れ。良い暇潰しになっただろ、満足だろ。

 何、おかげで見たいテレビを見忘れたって。最後に一回殴らせろ!!




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