ある島にて・・・（三十一日目）

三十一日目

　今日は風が凪いでいた。

　嵐の前の静けさとも言うし空気が張り詰めている。

　この感覚は好きになれない。

　危機感を煽り立ててきて。

　心の奥がむずむずする。

　当選の結果も知りたいしここに居ると雨風を凌ぎきれないので。

　老人参の庵に行かせていただく事にした。

　水樽や必要なものを木に蔓で縛り付けておく。

　これでこいつらも何とか凌げるだろう。

　そうこうしてるうちにどんどん空は暗転していく。

　風が流れ木々が揺らめく。

　

　細長い切れ目のある道を急いで駈ける。

　葉っぱの擦れ合う音が強くなる。

　獣が辺り一面走り回ってるような気にもなる。

　陽光はもはや見えない。

　ぱらぱらと降り始めた雨の中。

　ようやく庵へと辿り着いた。

　お邪魔しますと中へ転がり込む。

　老人参が驚く事も無く熱いお茶を出してくれた。

　見も心もあたたかくなる味だった。

　早速選挙の結果を尋ねると。

　なんと牛蒡が当選したのだと言う。

　やはり当日の印象が二人の評価を逆転させたのでしょうねと老人参。

　盛大にお祝いをやる所なのだがこの天気でそれは延期にしたらしい。

　たまにこういう通り嵐みたいなモノが訪れるそうだ。

　岩山が崩れるので近くの人は大変ですよと老人参が困ったように呟く。

　

　風が轟々と吹きすさぶ音が聴こえる。

　木々や庵がギシギシと悲鳴を上げている。

　ミシミシと何かが折れる。

　どんどん風と雨音が強くなる。

　こういう時は大人しく寝ているのが一番ですと二人でもう寝る事にした。

　この庵も大丈夫なのかと心配もしたが。

　老人参は笑って心配無いと言ってくれた。

　多分、今までも長い年月に幾度となくあった嵐も庵と共に乗り越えて来たのだろう。

　私も安心して眠りについた。

　これから朝まで木々と庵達は戦い続けるのだろう。

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