私は再び日常と共に居る。
今ではあの時感じた違和感も抜け。
またこの海の上で変わりなく彼方を見据えている。
船員も真面目でコックの料理も美味い。
それなりに生きがいもある。
けれども何かが不満なのは何故だろう。
確かに人間である以上は常に満足と不満を抱えているのだろうが。
それとは少し違う。
私は本当は何をどうしたいのだろうか。
港に帰還する。
知り合いや友人と久しぶりに飲み明かし。
暖かいベットでゆっくりと眠る。
良い暮らしだとは思う。
航海の後はいつも休暇を取る。
船員達もゆっくり羽を伸ばしてもらいたいものだ。
また一つ増えた航海日誌を眺めながら。
ゆっくりと熱い紅茶を喉に流し込む。
また一つやり遂げたと言う達成感と満足感に覆われる一瞬だ。
この時間はたまらなく好きだ。
そうして航海日誌達の横にひょっこり置いてある別の日誌に目を向ける。
他の豪勢なそれっぽい日誌とは違い。
単なるメモ帳の走り書きみたいなものだが。
それでいて最も大切だと思う時間が記されたものでもある。
今ではあの時の事は夢だったのかと思う時もあったが。
その記憶は歴然としてそこにあった。
私はゆっくりとペンを取り。
メモを見ながら新しい日誌に書き写し始めた。
題名は・・・・そうだな・・・。
陸続きの孤島であり。
誰も入る事無く彼らが誰にも邪魔される事無く暮らせる事を祈って。
ある島にて・・・・。
そう書き記した。
そして翌日。
私は副船長に船を引き継がせて。
全てを引き払ってそこから歩み出た。
本来居るべき所、本当に居たい所へと。
あの日のように。
ゆっくり、ゆっくり。
そして着実に。
彼らは逃げはしない。
またあの日の笑顔で迎えてくれるだろう。