ある島にて・・・（四十日目・太平天下）

四十日目（太平天下）

　大地に降り立つ。

　何だか酷く懐かしい土と風の匂いが出迎えてくれた。

　踏みにしる靴裏の感触も。

　空の高さも。

　全てがただ懐かしかった。

　街までの道のりも何だか楽しかった。

　久しぶりに見る人間の街並みはとても賑わっていて。

　感慨にふける暇も与えてくれない。

　今の私は生活時間速がずれてしまったのだろうか。

　何でそんなに急いで焦っているのだ。

　もう少し落ち着けば誰かの気持ちももう少し解るし。

　自分の気持ちも今するべき事も解るのではないのか。

　雑多に騒ぐ事だけが人の道では無いだろうに。

　笑えないのか？泣けないのか？心は感情というものは何処にある？

　ぼろぼろの衣服を買い換えるお金も無く。

　優越感と同情の視線を掻い潜りながら少し後悔をする。

　何の後悔なのかは解らなかったが。

　

　港へと赴く。

　これまた酷く懐かしい潮の香り。

　すべてが自分の知ったものだと言う安心感。

　だが嬉しくもなんとも無いのは何故だろう。

　私が望んでいた場所はこんなものでは無い。

　

　船員が話し掛けてきた。

　私は適当にあしらって船長の元へと歩いていく。

　臨時船員として働く代わりに船に乗せてもらえるよう交渉する。

　経歴と技術を述べると割と簡単に交渉成立した。

　やはり何時何処で如何なる時代でも技能がものをいう。

　漂着した事をあの場所の事を除いて話すと。

　同情した船長が衣服と風呂を用意してくれた。

　こういう時に同業者同士助け合うのも暗黙の了解となっている。

　初めにこの話をしなかったのは。

　雇われるなら自分の実力でと言う船乗りのプライドからだったが。

　こんな自己満足を忘れられるくらいに成長したいものだと。

　その時切に感じたものだった。

　取り合えずはこれで帰還したと言う事かな。

　何だか味気ない気持ちで居るのは何故だろう・・・。

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