絶望するのはまだ早い

穏やかなる眠りを

　懐かしい。リアはそう思った。

　埃っぽい大気もそのままで、皆携帯していたマスクを急いで付けた。ここはまるで時間が流れていな

いようで、あの瓦礫の山もそのままになっている。

「前に来た時のままだな・・・」

　ギルも同じ事を考えていたみたいだ。

「リア、あの地図ある？」

「うん、ちゃんと持ってきたよ」

　レイに言われてリアはこの遺跡の地図をリュックから取り出して開く。この地図を開くのも、どれく

らいぶりだろう。八つ折りの紙を開くたびに、一つ一つ想い出が込み上げてくる。

　キメラに怯えながら獣道をひた走り、この遺跡で一人の青年を見付けた事。それが全ての始まりで、

本当に色んな事があった。

「リア、どうかしたの？」

「ううん、何でもないよ。えっと・・・・・うん、確かここだわ」

　リアは地図を見ながら瓦礫を抜け、その山の影に隠れるようにしてあった階段を指差した。

「ここなの？」

　ミルドがランプを入れて覗き込む。暗がりの中に人工的な通路が照らされた。

「はい、そこです。じゃあ行きましょう」

　女達は頷きあい、入り口が狭い為に男達を置いて、静かに階段を降りて行った。カツカツと人工壁が

小気味のいい音を奏でる。

「不思議なとこね」

　ミルドは感慨深そうにしきりに壁を照らして見詰めている。人工壁は不思議な光沢を返してくれる。

　暫く下りると、少し広めの空間に出た。更に一つだけあるドアを潜る。

「ここに居たのね・・・彼が・・」

「はい、変わってません」

　そう広くない部屋にぽつんと棺のようなカプセルが安置されていた。カプセルはハッチが開いている

以外は何の個性も見受けられず、役目を終えたかのように静かに眠っている。

　二人はしばしそのカプセルの中を見詰め、そして静かに一つ大きな息を吐いた。

「・・・・・・」

　ミルドは黙って大事に持っていた布包みを開き、中から一本の棒を取り出した。それからゆっくりと

カプセル内にその棒を寝かせ、カプセルを起こさないように静かにハッチを閉めた。

　そして二人は目を合わせ、穏やかに笑い。

「おやすみなさい、ロン」

　声を合わせてそう言うと、そのままその部屋を起こさないように静かに出て、ゆっくりとドアを閉め

た。

　後に残されたカプセルは、侵入者達に動じる事も無く。それを黙って見送った。

　忘れられていた部屋に、再び安らかな静寂が訪れる。

　数少ないが、未だキメラは世界に残っており。暫くはその脅威の残り香を止めるだろう。

　だが上級種たるキメラには繁殖能力があらず、いずれ滅び。繁殖能力のある下級種も大地に根付き、

ゆっくりと獣へと還って行く事だろう。

　一つの歴史は幕を下ろし、人類の二度目の夜明けが始まる。ゆっくりとだが、確実に。

　そして再びキメラ蹂躙以前の文明にまで戻った時、人はまたキメラを生み出すのだろうか。

　それは誰にも解らない。ただ一つ解るのは人間は諦めない生物であり、例え過ちを繰り返しても繰り

返しても、そして何度滅亡に瀕しようと。いつか、そういつかはもう一段、階段を上れると信じている。

　そう、ただ一人でも諦めない限り、可能性は消えないのだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了

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