安らかに休める為に

鎮魂

　ミドガルズオルムが滅ぶと共にキメラ達は急激に力を失った。統率に乱れが生じ、今までのような統

制のとれた行軍も出来ず。王の死に狼狽したキメラ達には最早脅威を感じられない。

　リック率いる部隊は疲労しきった身体に鞭打ち、何とかこれの撃退に成功した。

　上位種はほぼ全てがこの戦いで滅び、下位種達は散り散りになって逃げて行った。キメラと人間の勢

力バランスは逆転する事になったのである。

　キメラの本拠地はその製造器機とデータと共に破壊され、ギルガはここに人類の解放と勝利を宣言し

た。この吉報はすぐさま全キャラバンに伝えられ、各集落へと伝えられた。

　本拠地襲撃隊は解散され、生き残った者達はそれぞれの居場所へと帰って行った。これより先は、集

落の復興と繁栄の為に尽力していくのだろう。無論、キャラバン隊もそのまま情報と物資の運搬。そし

て残存キメラの討伐等に活躍している。手の空いた隊は集落の復興にも協力しているようだ。

　決戦より一月が経ち、ようやく人々も落ち着きを取り戻したようであった。

「ギル、急がないとまたレジトさんに怒られるよ」

「ああ、解ってる」

　ギルは丸太を肩に担いだ。重みがずしりと肩にかかる。

「でも、何だか差が無いか？」

「気のせい気のせい」

　レイは腕に小枝を目一杯抱えて笑っている。確かに目一杯なのだが、ギルはどうにも麩に落ちないも

のを感じている。だが、じと目を送ってもまるで堪えないレイなのであった。

　レイとギルはレジト率いる青年団へと戻り、森の集落の復興に力を注いでいる。住居も何軒か建ち、

徐々に砂の集落から人々も戻りつつあった。キャラバンのミルド隊もこれに協力しており、作業も順調

に進んでいる。

「ほら、ギル早く早く。リアとミルドさんも待っているんだから」

「解ってる。急ぐ！」

　二人は駆け出した。この木材を持っていけば今日のノルマは終る。

　今日はリアとミルドと共に、あのロンの居た遺跡へと行く事になっているのだ。

　ロンをゆっくりと眠らせてあげる為に。

　二人はレジトとラフィアス長老から許しを得、休みをいただいた。そして急いでリアとミルドの待つ

長老宅へと向かう。

　汗を拭きながら扉を開けると、リアが頬を膨らませながら軽く睨んでいた。本人の意図とは逆に可愛

らしくも見えるその顔に、笑いが込み上げるのを必至に抑え、ひたすらに謝った。確かに予定していた

時間から１，２時間程遅れている。この時間から行くと、帰りはとっぷりと日が暮れているかも知れな

い。

「もう、二人ともしっかりしないと駄目じゃない！ね、ミルドさん」

「ええ、でももうその辺で許してあげて」

　ミルドは困ったように微笑んでいた。手には布に包まれた細長いモノを大事そうに握っている。そし

てゆっくりと時計を指差した。

「あッ、そうですね。早く行かないと」

　リアはそれでもレイとギルを一頻り叱ってから、急いで住居を出た。三人が後に続く。

　すでに日は高い。キメラがほぼ一掃され、行程は楽になったとは言え急いだ方が良さそうだった。

　四人は静かに速度を上げた。

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