覚醒

神威の魔槍

　閃光が吸い込まれるように消えた時、そこにあるはずの無い姿が風に揺らめいていた。

「ロンッ！！？」

　ギルとレイが叫び。ミルドとギルガの眼が思いっきり見開かれる。

　そこに居たのは、ミドガルズオルムの劫火で消し去られたはずのロンの姿だった。だが、不思議な事

に質感と言うか質量のようなものが見いだせられず、半透明に輝くその姿は、まるで幽魂のように朧で

現実味が無かった。

　しかし、それは紛れも無くあの青年の姿だった。手に握られた棒も光の塊のような槍へと変化を遂げ

ている。その光はギルガの持つ長刀と同質のモノに感じられる。

「・・・・起動完了・・・・・・対ミドガルズオルム形態・・システム安定・・・」

　音声が出ているのはもう明らかにその槍からだった。ロンの口は今は閉じたまま動かない。

「・・・・まさか・・その槍こそがロンギヌスなのか・・」

　ミドガルズオルムは狼狽す。次いで何故かその巨体を震わせて哄笑し始めた。大気と洞内も笑うよう

に揺れる。

「フハハハハハハハハハ！！そうか、そう言う事か。我も所詮はあやつの道具から抜け出せぬか・・、

愚かしい・・・我は今まで何を生きていたのか・・。フフ、フフフフフ」

　しかしその笑い声には今までのような侮蔑や蔑みの意はまったく感じられず、聴いているギルガ達、

敵対者であるはずの人間達でさえ、一抹の哀しみを覚える程に物悲しいモノだった。

「だが我は諦めぬ、最後まで我は我を貫く。それこそが死せし同胞達へのせめてもの手向け・・・、な

らば受けるが良い、ロンギヌス。これが我の存在意義よ」

　ミドガルズオルムは雄渾と片翼だけでその身体程もある長大な翼を広げ、心底から巨大としか言いよ

うの無い咆哮を吐き出した。そしてロンの方へ顔を向き直し、これ以上無い程に口を開いた。

　咥内に今までに無い程の数の炎が灯る。

「・・・・ロンギヌスの槍・・・」

　ロンはゆっくりと光槍を掲げた。光が更に強まり、もう光を纏っていると言うよりは光の塊と言った

風に、夥しい程に輝きを放っている。しかしまるで眩しくも無く、身体中に染み渡って行くような、あ

たたかくやわらかな輝きだった。

「！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

　ミドガルズオルムから劫火が放たれる。それは自らをも滅ぼすような膨大な炎で、ミドガルズオルム

の巨大な口ですら張り裂けそうな程、巨大な塊だった。

　そしてその巨大な火球がロンへと吐き出される。

　炎が激突し、熱波が周囲の温度を一瞬に跳ね上げた。遠く離れたはずのギルガ達ですら、防護服の上

からチリチリと皮膚が焦げ付きそうに感じる。全身の水分が一気に蒸発していくような錯覚すら覚える。

　そして洞内を火の海に変え、ブスブスと焦げ付いた匂いと嫌な音を残し、そこにあるあらゆる物を燃

やし尽くす。

「フハハハハハハ！！燃えろ、燃えて消え失せよ、ロンギヌス！ロキの呪われし遺児め！！」

　ミドガルズオルムは再び笑う。侮蔑でも勝鬨の声でも無く、ただ叫んで何かを忘れたいかのように。

「そんな馬鹿な！！！」

　しかしすぐにそれは驚愕の、いや畏れの叫びへと変わった。

　炎から美しい光が差す。そしてその光は全てを飲み込むように、ゆっくりと炎を侵蝕して際限無くそ

の輝きを増して行く。ゆらゆらと揺らめく熱気すら光へと変わり、その全てのモノはそうすべく生まれ

出でたかのように、するすると光槍へと喰らわれた。

　光そのものと化した槍はゆっくりと振り上げられ。

「・・・キメラ・・・滅すべし・・・」

　ぐんと静かに、しかし恐るべき速度で投げつけられた。

　光槍は一瞬でミドガルズオルムまで轟き、その全てをあっさりと貫いた。貫かれた部分をなぞるよう

に長大な体躯を真っ二つに光が疾走り、その全てから光が噴き上がる。

「ヌオオオオオオオオオッ！！！！！ロキ・・・サリアスめが・・・・」

　そして光はミドガルズオルムを、その存在を溶かして逝く。

「ロンギヌス・・・貴様も憐れな道具よ・・。貴様はここで死ぬ為に生かされていたのだ、意味も無く

・・・。その存在には何の意味も無く・・・・。そして共に滅ぶ・・・キメラである貴様も共に・・・

フハハハハハハハハハハ！！！」

　ミドガルズオルムはオーロラのように輝き薄れ、ゆっくりと溶け消えた。その声も色も、存在を現す

全てのモノと共に。

　キンと澄んだ音色を奏で、槍はロンの手の中へ戻る。

「・・・・ロンギヌス・システム・・・完了・・」

　そしてロンの朧な身体は氷が砕け散るように無数に割れ、共に光へと掻き消えて逝った。

　痕には、墓標のように突き刺さった一本の槍だけが残っている。

　再びその場には静寂が吹き荒れた。

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