ねじれ・・・その１

ねじれ（その１）

「私とて、初めからねじれてた訳ではございません」

　その初老の男はそう喋り始めた。

「ですが私がねじれたかったのも、また事実でございましょう。だからと言ってそう望んでた訳ではご

ざいませぬ。ただ偶然ねじれたのでは無いとだけはお心に止めておいて下さい」

　そのねじれ男はねじれた指で器用に指差した。

「この指差す線。ここからそれは始まるのです。心しておいて下さい。この場所に立ち入ると言うので

したら止めは致しませぬが、さりとて勧めも致しません。そちらにもご事情がございますでしょうから、

それはよろしいのです。ただ、ここを一歩越えるとそれは始まるのです」

　ねじれ男はねじれた目をぎょろりと動かす。

「私とて、このままでいたいとは思いませぬ。ですが最早出れぬのです。私はねじれ切ってしまったの

ですから」

　それからふっと目線を下ろし

「いいですね。ねじれ切ってしまう前に戻って来て下さい」

　それからねじれ男はよろしいですねと再度念を押しながらねじれた手でねじれた物を渡してきた。

「これを持って行きなさい。これでねじれ具合が解るはずです。良いですね？ねじれ具合は自分では解

らないのです」

　私はふらりとそれを持ってそこを出た。

「解らなかったのです、自分では」

　と言う呟きを背中に聞きながら。

「私もねじれるのだろうか。ねじれたいのだろうか」

　解らないからここに来た。

　来てしまったのだ。

　そうだったか？？

違う・・・私は探し物を・・

そうだったのか？？？

「この線を・・・・」

　越えたら始まるのだ。

「だから越えなければ」

　そう、越えなければならない。

　武者震いだか寒気だかで震えている足を一歩ずつ踏み出して行く。

　その線を越える時何が起こるのだろう？

　ゆっくりと一歩を踏み出す。

　そして一歩踏み越える。

「ん、あったかい」

　期待してたような何かは起こらなかった。

　ただ手渡されたねじれ物があたたかかった。

　こんにゃくのようにぐにぐにと。

　そして確かに生暖かい。

　生暖かい。

　それから少しだけねじれた気がした・・・。

そういう気がしたのだ。

BACK・ EXIT・ NEXT