ねじれ・・・その２

ねじれ（その２）

　ねじれている。

　だが不思議な事にねじれているのは人だけだった。

　誰もかれもねじれているが、家はねじれていない。

　柱も屋根も表札も。

　ねじれてはいない。

「何故人だけが・・・」

「それが解れば苦労しないのさ」

　その声を聞きつけたのか、横の路地から首が１８０度ねじれた女が側に来た。

「新人さんだね、おにーさん。まだあんまりねじれてないよ」

　後ろ向きに歩いてくる。

　誰かの目と背中を同時に見ているのは、何だか変な気分だった。

　関節もそのままなのに。

　確かにこちらに歩いてくる。

「ここでは疑問は無駄なのさ。そんな事は考えちゃいけない。いけないんだよ」

　そう言って手を出してくる。

　私が緩慢にぼーっとそれを見詰めていると。

「握手だよ、おにーさん。知らないのかい、握手？」

　私はああとだけ呟き。

　緩慢に握手をする。

　よく見るとその手も１８０度ねじれている。

　こんな風に握手するのは初めてだ。

「おにーさん、握手の仕方も知らないのかい？。手の甲なんて握っても仕方無いじゃないのさ」

　首ねじれ女がしょうがないねえと反対の手の甲を当ててくる。

　私は慌ててそれを握った。

「ふふ、そうだよ。これが握手だよ」

　首ねじれ女は満足そうに頷く。

「今はこんなの流行らないけどねえ。まあ、たまにはいいじゃないのさ。おにーさん綺麗な手してる

し。触りたくなったのさあ。普通に握手出来るしね。他の奴らはいけないよ。こうやって普通に握手

出来ないからね。ねじれてるくせにそれが解らないから変な具合になるのさ。腰がねじれて股の下か

ら顔と手出してるのもいるし。やり難いってたらありゃしない」

　何だか頭が痛くなってきた。

　頭がねじれたのかな・・。

「んー、どうしたのさ。いきなり黙り込んで。よく喋る女は嫌いかい？でもまだ肌はぴちぴちしてる

よ。ん、それで十分じゃないさ。胸だって立派なものだよ」

　そう言って背中を突き出してくる。

　私がおかしいのだろうか。

「まあいいさ。無口な男も嫌いじゃないさね。おにーさんは顔がいいから特別だよ。暇になったら遊

においでよ。わたしの家は、ほらすぐそこだよ」

　右手でそばの家を指す。

　ああ、正常だ。変じゃない。

「じゃあ、待ってるよ」

　そう言って首ねじれ女は家に入った。

　何故や疑問はここではご法度だとそう言った。

　それならそうなのだろう。

　もう考えるのは止めた。

　そしてまた、少しだけねじれた気がした。

　確かに何かがねじれ始めている・・・。　

BACK・ EXIT・ NEXT