ねじれ・・・その３

ねじれ（その３）

　首ねじれ女と別れた後、改めて見回してみる。

　そう広くは無い街の中に溢れるほどの人が居る。

　皆そんなにねじれたいのだろうか。

　取り合えずまっすぐ進んでみる事にする。

　昨日の夜は寝苦しかったとか話をしているねじれ人の横を通り抜け、大通りにそって進む。しばらく行くと喫茶店を見つけたので入ってみる。

「いらっしゃいませ」

　愛想良く店員が声をかけてくる。

　両腕が搾った雑巾のようにねじれている。

　これでウェイトレスが勤まるのだろうか。

「カウンターのお席でよろしいでしょうか？」

　返事を言わないまま席に通された。

　私は珈琲とサンドイッチを頼み、店内をのんびり眺めてみる。

ほどなくオーダーが運ばれて来た。取り合えずトレイを持つのは大丈夫らしい。

　腹も減っていたので早速食べ始める。

「おい、君。一ついただいていいかね？いいんだな、いいんだね」

　そう言ってサンドイッチを一つ隣の男に取られた。

「えっと・・・」

「うん、美味いなこのサンドイッチは。ううむ、ライターが付かない。付かないな、付かないよこれは。安物はやはり駄目だ、駄目なんだよ」

　そう言ってライターを床に捨てる。

　ウェイトレスが睨んでいる。

「いやあ、君。ライター持ってないかね。持ってない？持ってないのか。そうか、それは残念だ」

　相変わらず一人でせっかちだ。

「新顔だね君は。うん、そうだ、そうに決まってる。ねじれてない、いやねじれてるのか。うーん、まあいい。取りあえず見ない顔だ」

　その男は腰が１８０度ねじれていて、足が反対方向に出ている。

　こっちを向くと足は後ろへ。後ろを向くと足はこっちに回ってくる。これはカウンターしか座れまい。

　腰ねじれ男は忙しなく動いている。

「いやいや、見ず知らずな男にサンドイッチをくれるとは何て君はいい奴なんだ。この街の奴らはどうもいかん。私が了解を得てから食べてる

のに泥棒だのなんだの散々文句言ってくる。くれたものを返せなどとさもしい奴らだ。君もそう思うだろう。思うだろう？そうか、やはりそう思うか」

　私は言わなかったのではなく、言う暇が無かっただけなのだが。

「私はこの先の二階建てマンションに住んでおる。何かあったら来てくれ。この街の事なら少しは知っている。君もねじれに興味があって来たのだろう？

そうか、そうなんだな。やはりそうか、ここに来る奴は皆それだ。勿論私もだが、あんな奴らと一緒にされても困る。私はこのねじれを調べる為に

ここに来たのだ。ああ、大変だよ。こんな事は前代未聞だからね。そうだ、私は調べ物があったのだ。そうだった。こんな場合では無い。では失礼」

　腰ねじれ男はそう言う間も無く。すっくと立ち上がるとそのまま出て行った。

　ウェイトレスが片付けに来て不満そうに頬を膨らませている。

「お客さん、お知り会いで無いのならあんな男に関わらない方が良いですよ。ライターを店内に平気で捨てるなんてどういう神経してるんだか」

　ぷりぷりと怒ってらっしゃったので、私も食事もそこそこにさっさと引き上げる事にした。

　結局落ち着いて食べられ無かった。

　当てられたようにぼんやりしている。

　考えるのは面倒だ。

　ここは考える所ではない。

　ねじれる所なのだ。

　ねじれ切ると出られなくなるのに、誰も此処から出ようとも思わない。

　当然のようにねじれている。

　私も当然ねじれるのだろう。

　今も多分ねじれている。

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