暗い食らい

黒い空

　生まれた時からそうだった。

　僕らの空は、黒く鈍い輝きの鉄壁。

　でも、本当はそうじゃないって。本当の空は青く蒼く、とても澄み渡っているんだと。昔を知る人は

僕にそう教えてくれた。とても懐かしそうな目で、そう教えてくれたんだ。

　だから僕らも憧れている。本当の空に・・・・。

「んー」

　目が覚めると、黒光りする鉄壁が目に入って来た。昔を知る人が曇り空と呼ぶ、僕らの知る空だ。

　毎日夢を見るけど、そのの空も決まって黒い。青い、蒼い空ってどんなのだろう。

「ふあああああ」

　大きな欠伸をすると、それでも眠気が取れた気がする。そして背筋を伸ばす、関節がボキボキと歓声

を上げた。地面に直で寝ると肩がこって仕方が無い。まあ、贅沢は言ってられないけど。

　僕が生まれる少し前に人間が済む場所は、地上から地下へと移った。理由は解らない。聞いても誰も

答えてはくれない、大人の事情ってやつなのだろうか。

　僕はこの地下で生まれ、それからあの黒い空を眺めて過ごしている。落盤を防ぐ為に空はどこも鉄壁

で補強されているのだ。そしてそれを支える為の大きな柱が何処に視界を移しても入って来る。

　もう１７年くらいはこうしているだろうか。もう自分の年齢なんて覚えて無い。

「おはようございます」

　起きたら公衆水場でこうしてあいさつをする。そして水を飲み、軽石で歯を磨く。ここで気を付けな

いと一日中、歯茎から血だらけと言う破目になってしまうから大変だ。

　それから食事を摂る。何？歯磨きと順序が逆だって。そんな細かい事は気にしない。習慣ってそんな

もんでしょう。

　食事は主に苔を食べている。かなり不味い、と言うよりも味も素っ気も無い。ただ泥岩の味がする。

他にはゴキブリ何かも主食になる。けれど、僕はどうしてもあれだけは食べられない。あの黒光りする

グロテスクさを飲み込むくらいなら、苔の方が遥かにマシだ。ゴキブリも慣れたら美味いらしいけど。

　やはり味やそんなものよりも大事な事ってあるでしょう。

「さて、今日も頑張りますか」

　食事を摂ったら次は早速仕事が待っている。職種は結構豊富。ゴキブリ獲りから苔の収穫、他にも落

盤防止工事や鉱石掘りなんか色々。

　ちなみに僕は鉱石掘りで、鉄屑やら石炭なんかを売っては生計を立ててる。親も兄弟も関係無し。１

５くらいで身体が育ったら独り立ち、そんな感じかな。

　そして僕は今日も鉱石を掘り続ける。たった一本のツルハシを財産として。

「えーんやこら、やっほっほーい。えーんやこら、やっほっほーい」

　これは掘る時に必ずやる掛け声。何でも昔からの伝統らしい。僕には良く解らないけど、人の居場所

をお互いに把握する為何だとか。一人きりになったら危険だもんね。

「よっこらほっこら、ひえーい。よっこらほっこら、ひえーい」

　ほら他の人の掛け声が聞こえて来た。掛け声にも色んなものがあるみたい。

　ともかく、働かざる者食うべからず。明かりが薄まるまで頑張るのみ。

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