グラッチェぐらっちぇ

昼夜の流れ

　地下なので、夜になるといっても日が暮れる訳では無いのだが。ただ到る所に設置された照明が幾つ

か落とされ、薄暗くなるようにされている。雰囲気が大事だとか言ってるけど、何でわざわざ暗くする

のかは僕には理解出来ないとこがある。

　まあ、エネルギーの節約かも知れないけれど。

　エネルギーは主に電気が使われている。でも、使われると言っても照明くらいしか使い道は無いんだ

けど。ともかく、だいたいの時間が解るのは便利かな。時計なんて高い物、そうあるものでも無いんだ

し。

「今日も掘ったなあ」

　額の汗を右手で拭うと、右手に泥汚れがみっちり付いていた。早く汚れを流したいな。

　つるはしを抱え、戦利品を掴む。今日は石炭やらがごろごろ出てきた。上手く掘り当てるとそれだけ

で気分もうきうきする。

　いつもは鉄塊の小さいのが出れば上等なんだから。掘る場所をちまちま変えたのが良かったみたいだ。

　半分は生活費に当てて、半分は自分用にとっておこう。地下はいつも薄寒いから。

「ああ、労働の君は美しい・・・・。艶かしくも滴り浸る、その汗が・・汗が・・・はあはあはあ」

　目の前に、髪をかき上げ、しなを作る妙な男が突然現れた。何故か息も荒い、危険だ。

　なんて事だろう。折角の爽やかな労働後だったのに。僕は無視して通り過ぎる事にした。こいつには

関わりあわない方が幸せに決まってる。

「ああ、無視していくその男らしさが素敵だ・・・・」

　わざとらしく当たり前のように追ってくる。うっとりしているその顔に身も毛もよだつ思いになる。

慰謝料でも請求してやろうか、イッソノコト。

「付いてくるなよ、レット」

　いい加減に限界を迎えた僕は、振り返りそう言ってやった。無視し続ければ、それが一番良いのだと

解っている。解ってはいるけれど、我慢がしきれない自分が憎い。

「ああ、私に声をかけてくれるなんて。ああ、私は何て幸多き人生なのだろう・・・。そして、その件

に関しては私と君は家の方角が一緒なんだ・・・。実に運命的だと思わないかい・・・」

　相変わらずうっとりと僕を見詰め、気持ち悪い視線を送るこいつを、そう一応紹介せねばなるまい。

不本意ながら。

　こいつは通称レット。所謂オカマ、それ以外の何者でもなく。それ以上の何者でも無く。何故か気に

入られたらしい僕にとって、僕の人生そのものへの嫌がらせとしか思えない。そんなオカマである。

「ねえ、愛しの君。今日の成果は美しかったかい？」

「いや、美しいかと言われても・・・・」

　レットは全ての基準が美しさらしい。ここら辺は無視して良いと僕は思う。

「なんだい、石炭をたくさん掘っているじゃないか。ああ、なんて美しいのだろう・・・・。この原子

の一つ一つが美しく結合しているのだよ。結合だ・・・・解るかい」

　そして何故かレットの頬は赤く灯っていた。

「まあ、今日は珍しくたくさん出てきたけど・・・」

「結合だよ・・・美しい・・・」

　この自己中心オカマは勿論何も聞いてはいない。紛れも無く悪いお釜だろう。

　ともかく僕は一日の汚れを落とすべく、公衆水場へと向かった。身の危険をひたひたと感じながら。　

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