それで良ければ、全て良し

晴天は遥かに微笑む

　暖かい日差し。そこから今にも飛び立てそうな幸福感が僕を包む。

　ぽかぽかと気持ちは浮き上がり、そして空の彼方へ。あの白いふあふわのように漂いたい。流される

ままに、しかし自在に形を変え。そこで滅すも流れるも自由気まま、そこにこそ求めているものがある

のかも知れない。

　即ち

「遠くにあるからこそ望むってなもんだよ」

　空からすれば大地に立てる僕らの方が羨ましいのかも知れない。もしかすれば、あの蒼さの中で必至

に大地を目指しているのかも知れない。永遠に届くとも解らないモノを目指して、永遠に澄み渡ってい

るのかも知れない。

　洞壁の上に空いた大穴の真下に行く。野菜達の緑を踏み散らさないように注意して。もしかすれば、

この緑達も僕や空を羨んでいるのかも知れない。歩ける僕を、届かぬ空を。

「んーっ」

　一人、背伸びしてみた。呼吸をして気持ち良いなんて初めてだったから、純粋にそれだけで嬉しい。

ここはマスクも要らない、そんな埃っぽく無い空気が満ち満ちている。まあ空の気ってなもんだから、

空が在る所はこの空気も嬉しいんだろう。

「結局・・・何がなんだったのやら」

　今までをふと思い起こしてみる。元々は新しい堀場を求めて、でも途中からはほとんど無意味に意地

を通して。そして何故か今は空の下。

　自分でも訳が解らなかった。そして多分、こんな事は深く考える事じゃないと思う。ただ、今僕はこ

こに居る。そう、それだけの事。

　そして僕はもうこの空から離れられない。だから

「ここで暮らさしてもらおう」

　と、勝手ながらもそう決めた。ビッコルさんには悪いけど、ビッコルさんの事はビッコルさんに何と

かしてもらおう。うん、そうしよう。

　レットもロッコルも居るだろうから大丈夫だろう。でも不安と言えば、レットとロッコルは無事に帰

れたのだろうか。んー、まあ無事だと思っておこう。行商人にでも頼んでおけば、その内情報が入るだ

ろうから。いざとなればリルに頼むのも良いかも知れない。

「よし万事解決」

　おもむろにピースサイン。これぞ平和の証。

　欲を言えば、レットとロッコルが堀場でも見付けてくれていれば良いのだけども。ま、何とか生きる

でしょう。

　何にしても、僕はここで空を見て暮らす。そう決めたのだ。

　そう、自分で決めたのだ。

「しょっと」

　野菜達の横に寝転ぶ。

　空は何故か暗かった。そしてこれまた何故か水が落ちて来る。

　しばらくするとまた空は蒼に還った。

　緑に煌く雫に差す光が、またやけに綺麗だった。

「これが雨ってやつか・・・」

　昔を知る人から聞いた単語が記憶の淵から甦る。

　空は時に暗く、水を落とす。でも、その上では変わらず蒼いと。そう言っていた。その時は憂鬱な気

分にもなった。とも言っていた。

　けれど僕はこの雨は嫌じゃ無かった。空と確かに繋がっている気がしたから。

　そして空を見る。

　空に果ては無く。ただ、何処までも澄んでいる。多分、いつまでも。

　だから僕はいつまでも空を眺める。

　あるがままに、心、感じて・・・。

　そして僕は今もここで眺めている。ずっとずっと眺めている。終わり無き空を、果てしなき空を。

　一つ知らせておかなければならない。行商人の情報では、レットとロッコルが出来てしまったらしい。

ビッコル一家は今も健在で、一緒に仲睦まじく暮らしているとか・・・・。

　それはそれで良いのだけども。ただただ、ただただ、本当に・・

「キモッ！！！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了　

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