新たなる始まり

解き放たれた黄昏

　地響きと人間の掛け声がする。むせ返るような土煙と地熱、そして溢れ返る熱気。すり鉢状の穴に数

十人の人間達が各々働いている。土砂を掘り起こす者、運ぶ者、そしてそれらを指示する者。多種多様

な役割が様々に噛み合って円滑に物事を運ぶ。

　人足の一人が何やら叫んだ。

「レズナー参謀長、どうやら出てきたようですぞ。あの文献は正しかったようですな」

「うむ、早速選帝公様にお伝えせねば」

「しかし漆黒の機体とは・・・・何だか不吉ですな」

「クルフ長官、滅多な事を言うものでは無い。気持ちは解るが」

「失言でしたな。申し訳ありませぬ」

　真っ黒いモノは空を鈍く睨んでいる。長い年月をかけたようには見えなかったが、腕はもげ、体中に

戦火の後が色濃く見受けられた。それでも全身から発せられる威圧感のようなものはまるで遜色無く、

辺り一面に降り注いでいる。

「どうやら死んでいないようですな。まったく驚かされる技術です。風化も浸食もまったくされていな

いとは・・・・」

「うむ、問題は我々に使いこなせるかだよ長官」

「ん、あれに合う霊機はすでに探し当ててございますが」

「私の言っているのは乗り手だよ・・・」

　黒い機体からは低い唸り声のようなものが深く低く聴こえ始めていた。

「共感者はまだ見付からぬか・・・・」

　アウグストゥスの選帝公は淡い溜息と共に誰とも無く呟いた。

　皇帝を選定する力を持つ７人の選帝公の中でも、最も力を持つと言われる彼の御仁も地位故の重みが

あるのだろう。

　レズナー参謀長は自分の不甲斐なさを悔いた。

「レズナー・・・お主が気にする事はあるまい。あの精霊に乗り手として認められようと思う方が本来

は間違っていると言えるのだから」

「ですが・・・、あれ以上の霊機は帝国広しと言えどもありますまい。それでもあの機体に正直役不足

の感は否めないのです。かと言いましても他の機体では対抗出来ないでしょう・・・・」

「わしが老いてさえいなければ・・・・」

「それは言わない約束でしょう・・・・」

「そうであったな、すまぬレズナー」

　深い苦渋の気配が辺りを包む。外は晴れやかな風が流れていると言うのに。

「取り合えずは数名の候補生が尽力しております故・・・・」

「解った、レズナー・・・。まだ少しの猶予はあろう・・・。もしもの時はお前に全てを一任する。頼

んだぞ」

「・・・・・選帝公様・・・・」

　選帝公は蝕まれた身体を恨むように見詰めていた。

　レズナーは見ていられずに哀しみと共にそっと辞した。

　公はいつまでもそこを見据えていた。　　

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