捗らない現実

不穏と不理解

「まったく、アウグストゥスの選帝公も皇帝陛下も何故あんなものに拘りになられるのか。我が軍の霊

機兵だけでも充分であろうに。他国には引けを取っておるまいが」

「ラグナート右将軍、公にも陛下にも考えがあっての事でしょう。それに我が国にとっても不利益には

なりますまい」

「しかし、ウィル左将軍よ」

「ともかく、我らは我らの役割を果たす事に勤めましょう」

「ううむ、そうであるな・・・。承知した」

　ラグナート右将軍は渋々頷きながらも不満を隠す様子も無い。霊機兵団総帥である彼には特別扱いに

なる古代の遺産、魔動機兵には不満があるらしい。自分の兵団にも絶対の自信があるのだろう。

　ウィル左将軍はラグナートを冷ややかな目で見送った。

「まったく、筋肉にばかり栄養を取られて、頭にまで回っていないらしい。魔動機兵に霊機兵で相手に

なる訳があるまいに・・・・・。しかし、禍々しい機体よ・・・・」

　彼の目線の先には黒々とした機体が整備されている。震えるような振動音が彼の機体の産声のように

も聴こえ、不気味さが拭えない。

「それにしてもはた迷惑な遺産よな・・・・」

　ウィル左将軍はそれを苦々しく睨んでいた。

　その下では霊機技師達が懸命に仕事をしている。

　流れている汗にも気付かない程に集中し、口と手と足を忙しなく動かす。でも、傍目にも作業が進ん

でいるとはとても見えない。

　黒い機体の隣には赤い機体と蒼い機体があり、その整備にも手間取っている様子だった。

「ガウェン技師長、神経結合が上手くいきません。霊機の処理速度がまったく上がりません」

「フォーウェン魔動技師長、このままでは埒があきません。今回の機体は今までの魔動機の技術をも遥

かに上回っております。我らの技術では・・・・」

「弱音を吐いてる暇があったら、頭と手を動かせ！！」

　二人の技師長は同じ台詞を同時に叫ぶ。双子のようで造作も所作も非常に良く似ている。

　二人は鏡と向かう合うが如く向かい合って、理論をぶつけ合って打開策を見つけようとしていた。

「ガウェンよ、やはりこの機体には並みの魔力では太刀打ち出来ぬ。ここは多少スペックを落としたと

しても、霊機の反応速度を重視すべきではないか。でなけば、乗り手である共感者が耐え切れまい」

「しかしフォーウェンよ・・・。コピーでないオリジナルの霊機を使おうにも、リスクが大きいぞ。そ

れならば、多少反応速度が遅れようとも機体の能力に任すようにした方が良いのではないか。共感者を

鍛える方が現実的であろう」

「ううむ・・・・」

「うーん・・・・・」

　帝国の誇る二人の技師長は再び古代の文献に目を通し始めた。

「使えなければ意味があるまいに・・・・。しかし、あれを使わせる程に我が国も切羽詰まっていると

言う事であるか・・・・」

　その二人をしばらく眺めながら、ウィル左将軍は溜息を吐いた。

「白い天使に黒い悪魔とは皮肉な事だ。しかし共和連合め・・・、どこからあれを動かす程の技術を手

に入れたのか・・・。我が国の技師長達ですら困難を極めていると言うのに・・・」

　彼は嘆くのを止め。自分のやるべき事を居るべき場所でする事にしたらしく、ともすれば放棄にも近

い感情でゆっくりと後ろへ振り返り、歩み出した。

　黒い悪魔が後ろで笑っているように思えた。酷く寒気がした。

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