蒼い黒


 蒼い空、いつまでも蒼い空。いつまでも晴れていて、海と同じく白い雲が揺ら揺ら、揺ら揺ら。

 高いお山に登ると、あまりにも空が近くて、そっと手を伸ばしてみると、ちょんと何か触る物がある。

 どきどきしながらもう一度、今度もちょんと触ると、空が揺ら揺ら揺れている。

 面白くって触り続けていると、べりっと空が剥がれてしまった。

 奥は黒くて、何にも見えない。でも目が慣れてくると、奥一杯にきらきらしている丸い物が見えた。

 嬉しくなって見ていると、何だか黒いのがはみ出してきそう。

 慌てて空を拾い上げて、べりっとそこに貼り直す。

 でも黒はどんどんはみ出して、出来た隙間から黒い何かが滲み出してきた。

 力一杯空を叩いても、その隙間が埋められなくて、黒い何かが溢れてくる。

 とうとうそれが黒い雲になって、どんどん空が染まりだす。

 蒼い空が黒雲に覆われて、今はもう真っ黒で、あんなに明るかった空が、真っ暗で何も見えない。

 ぴしゃりぴしゃりと雷が鳴って、黄金の竜が暴れ始める。

 怖くなってぶるぶる震えていると、ぽつりぽつりと冷たい水。

 空から沢山水が降って、晴れてた地面に溢れ出す。

 どんどんどんどん溜まってしまって、そこに大きな水溜り。

 まるでもう一つ海が出来たみたい。

 黒雲から降ってきたのに、その水はとっても綺麗で、青々と澄んでいる。

 どうしようか迷ったけど、喉が渇いたから、ごくんごくんと飲んでみた。

 何だかとっても美味しくて、何度も何度も口を付ける。

 冷たくて爽やかで、何だか水に溶け込んでしまったみたい。

 そう思って気付いてみると、いつの間にか水になって流れてた。

 水溜りをすいすい泳いで、ざぶんと潜ると、地面が水を凄い勢いで飲んでるのが見えてくる。

 でも降ってくる水の方がたくさんで、地面だけでは辛いみたい。

 手伝ってあげたいけれど、でももう水になっちゃったから、飲んでも飲んでも減ってくれない。

 哀しくなったけど、今泣いたらもっと増えると思って、我慢した。

 地面は頑張って飲み込んでいる。

 どれだけ飲んだら、お腹一杯になるのかな。

 それともお腹一杯にならないのかな。どっかに出て行ってしまうのかも。

 応援してたら、いつの間にか飲まれてしまっていて、ぐんぐんぐんぐん流された。

 すると身体がぽかぽかしてきて、ぐつぐつ水が沸いてくる。

 慌てたけど、流れるしかないから、じっと我慢する。

 ぼうっとしてきて、ふわりと浮いて、今度は湯気に変わってた。

 水はどんどん沸いて、まるでお風呂みたいにぐつぐつで、流れれば流れるほど湯気が増えてくる。

 ああ、こうしてまた地面もお腹が空くのかなって、何だか少し安心した。

 これならいつまでも飲んでいられる。

 身体がどんどん温かくなって、ふうわりふうわり土を通り抜けて、今度はぐんぐん上がっていく。

 すぽんって地面から抜けて、雲にくっつくと、いつの間にか雲になってた。

 黒いのじゃなくて、白い方。

 ふわふわふわふわ浮いていると、黒い雲がなくなっているのに気付く。

 また空はすっきり晴れていて、隙間も塞がってるみたい。

 安心して息を吐くと、びゅうって風が吹いていく。

 面白くって何度も息を吐いてると、どんどん雲が軽くなって、そのままずっと昇ってく。

 ごちんと空に当ると、空が痛そうにしてたから、ごめんなさいって謝ると、空はにこにこ許してくれる。

 嬉しくなって一緒に笑うと、見てごらんって空が言うから、何だろうって思って見たら。

 そこに大きな虹があって、すっかり地面も元通り。水溜りも消えていて、青く晴れた空から、たくさん

光が降ってきて、きらきらきらきら輝いてた。

 とても綺麗だから、今度は虹になりたいなって思ったんだ。




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