ビリビリびびり


 ビリビリくんは雷の子。いつもビリビリ放電中。どこでもビリビリ放電中。

 でも本当はこわがりです。

 皆と居るのがこわいのです。

 だからビリビリビリビリ寄せ付けず、いつも一人で遊んでいます。

 ただ一人だけビリビリなんか平気な子が居ました。

 その上その子は透明で、気持ちが全部見えてしまいます。

 その子の考えている事は誰でもずっと見えるのです。

 ビリビリくんはその子をとてもおそれていました。

 ビリビリさせるのが唯一の意思表示であるビリビリくんにとって、それが効かないのは言葉が通じないのと一緒

です。

 もし無遠慮にそばに来られたらどうしよう。

 そしていつものように勝手に嫌われてしまったらどうしよう。

 しかもそれが何となくではなしに、真っ直ぐに全部伝わってくるのですから、これはこわいどころの話ではあり

ません。

 けれど自分のそばに来てくれる可能性があるとしたらその子だけという事も解っていました。

 誰かと接するのはこわいけど、誰とも接しないのはさみしい。

 だから皆からちょっと離れた所にいて、独りでビリビリしているのです。

 ビリビリくんの心は複雑でした。

 きて欲しくないはずなのに、きてくれる日を待つような不思議な気持ちで過ごしていました。

 そんな日が続いてくると別のこわさが生まれてきます。

 結局透明の子は最後の最後までビリビリくんに対して興味を持ってくれないんじゃないか。

 それは本当にこわい事です。

 話しかけてみれば良いのかもしれませんが。普通の相手でさえこわいのに、その心がはっきり解る相手になんて

とても話しかけられません。

 いつまでも独りで悩み、独りでビリビリしているしかありませんでした。

 そうこうしている内に透明な子の周りには誰も寄らなくなっていきました。

 初めは良かったのです。透明な子は見た目通り素直な子で、多少はわがままな所もありましたし、かんしゃく持

ちなとこもありましたが、わりと好意的に受け容れられていました。

 たまにケンカも起こりましたが、その程度のものだったのです。

 でも相手の心が解るという事は、その気持ちや考えを目の前に常に突き付けられ続けるようなものです。

 いつもその子の考えや気持ちが目の前に来て、それから自分の気持ちを考えなければなりません。

 その考えに賛同するにせよ、反対するにせよ、まずその子の考えと気持ちがくるのです。いつも透明な子の気

持ちや考えが基準になってしまうのです。

 そんな事が続いていると、皆その事にひどく疲れを感じるようになってきました。

 自分ではなく透明な子の気持ちから考えるという事に、とても疲れを感じてしまうのです。

 決して透明な子を嫌いになったのではないのですが。一緒に居て疲れる人と交際を続けていく事はできません。

一人また一人と距離を置くようになっていきました。

 苦手意識を持つようになってしまったのです。

 透明な子は積極的に誰かと関わろうとするような子ではなかったのですが、誰も居なくなるとさすがに寂しくな

ります。

 こちらから出かけて行けば追い返される事はないのですが、わざわざ苦手に思われている相手の所へ遊びに行っ

ても、それは楽しい訳がありません。

 そんな奴の所へ行ってやるものか! という虚しい意地もわいています。

 なので独りでいる方が気楽だと強がってもみたのですが。しばらくすると不意におそろしい程の寂しさがきて、

どうにも耐えられなくなります。

 そこで自然とビリビリくんの存在に気付く事になりました。

 まったく興味がないどころか、今まで目に映ってもいなかったのですが。気付いてみるといつも近くに彼はいます。

 正確に言えば透明な子の方がビリビリくんへ近付いていたのですが、そんな事は知りません。その存在に今気付

いたのですから、近付こうという意識など今まで無かったのです。

 そこでまあ物は試しと話しかけてみたのですが、ビリビリくんの返事はまったく要領を得ません。何を言ってい

るのか解らないし、どうしたいのかも解りません。

 さすがに透明な子も疲れてしまい、ちょっとした苦手意識というやつを持ちました。

 その事は当然ビリビリくんにも伝わります。

 彼がおそれていた事が起こってしまいました。

 勝手にそばにきて、勝手に嫌っていくいつものやつです。

 ビリビリくんは泣きたい気持ちでいっぱいになりました。こんな事ならいつまでも放っておいてくれれば良かっ

たのです。

 ビリビリくんの方から去って行ければ良かったのですが、彼にそんな度胸はありません。

 独り黙って悲しむしかなかったのです。

 そこへまたしばらくすると透明な子がやってきて、かみ合わない会話を続け、苦手意識だけを持って帰って行っ

てしまいます。

 ビリビリくんはその事をひどい苦痛に感じました。

 でも逃げられません。

 逃げる勇気もありません。

 そんな事がどれくらい続いたでしょうか。

 初めは互いに苦痛しかないような不器用で不自然な関係でしたが、次第に何となくお互いに慣れてきてしまいま

した。苦手意識は消えていないのですが、それならそれでやりようがあるというのか、何となく付き合えてしまっ

たのです。

 ビリビリくんが我慢しなくなった事も良かったのかもしれません。

 最初は耐えるだけだったビリビリくんも、さすがに我慢が爆発してしまって、透明な子の事が苦手だの一緒にい

ると辛いだのぶちまけてしまったのです。

 透明な子は何とも言えない顔をして、しばらくしょげたような風情を見せていましたし、その時はそのままどこ

かへ行ってしまったのですが。それでもまた少しするとやってきて、話そうとしてきます。

 ビリビリくんもさすがに言い過ぎたと反省していたのですが、こうなればもう遠慮は要らないと思って、それか

らは相手の気持ちなんか考えず、自分の気持ちをぶつけるようにしたのです。

 透明な子が自然にやっている事を、ビリビリくんは意識してやるようになった訳です。それでお互い様という訳

でもなかったのですが。相手の気持ちばかりを先に考えて疲れてしまう事はなくなりました。

 考えてみれば相手が真っ直ぐ気持ちをどんとぶつけてくるからといって、こっちの気持ちを遠慮して引っ込める

必要はなかったのです。相手がどんとくるなら、こちらもどんと行けばいい。それで衝突する事もありますが、そ

んなものは慣れてしまいます。

 我慢していてもいずれ爆発するだけなのだから、遅いか早いかだけの違いだという考え方もできます。

 それに二人には衝突を解決できるだけの時間はたらふくあったのです。

 苦手意識を持つのは相手に対してどうして良いか解らないという事ですから、その接し方さえ決まってしまえば

自然と薄れるという事もありました。

 こうしてお互い苦手意識は持ちながら、何でも話せるしそんなに悪いものでもない、という奇妙な関係が出来上

がってしまいましたとさ。

 おしまい。




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