青い雫


 日が昇ってすぐ、いや、昇るかその前か解らない僅かな瞬間に現れる青い空。そこから降る雨を誰が呼ん

だか青い雫と言う。

 青い雫は全てを青に染める。

 そして青い雫が降る間だけ、ふっと現れる世界がある。

 その世界は青く、全てが青で表現されている。白黒が全て青になったような不思議な世界。

 青の世界には青き人が居るそうだ。

 青き人は毎朝存在できる僅かな時間の間にある仕事をこなしている。

 この世に生きる全ての人間から赤き心を奪う事。心を冷やし、青き心に近づけさせる事。

 誰が望むのか、必要なのか。解らないが、青き人は毎日をその仕事に費やしている。

 そして満足を得ている。

 まるで人が飲食して腹とその他のものを満たすように、彼らは人から赤き心を奪う事で満足を得る。満た

される。僅かだが、ほんのゆっくりと満たされる。

 そうする事でどうなるのかは解らない。

 人が解らないまま生きていくのと同じように、青き人にもその理由と意味は解らない。

 本当に望んでいるのか、何の為に奪うのか。誰も知らない、解らない。

 きっと解らないからこそ生きていけるのだ。

 だがそうしてどれだけ赤を奪おうとも、夕暮れには赤の世界が生まれ、赤き人が人に赤き心を宿す。

 暗闇に隠れる前のただ一瞬の時間、人は赤き心で満たされる。

 その心は夜の間も引き継がれ、夜に書いた文章などは昼に見てられないものとなる。熱さがおかしな方向

に人の心を運ぶのだろう。

 それは青き人が奪うまで続く。

 だからもし昼夜が逆転なんかしてしまったら、もうとんでもない事になるはずだ。

 赤き心におかしな具合に熱されたまま過ごし、青き人に赤を奪われてから眠る。それは賢いとは言えない

生活だ。いつも頭に眠気が宿っているようなおかしな具合になるのもそのせいだろう。

 人が夜を好むようになったせいで、浮かれている時間が多くなった。

 後悔する事も増え、絶望に沈んだり、笑い話になったりする事も増えた。

 繰り返し繰り返し気付かぬ失敗を続ける。青き雫が降るまでは。

 とはいえ、赤き心に満ちているからこそできる事もある。人を突き動かす熱情となるのは常に赤き心。そ

れが無ければ生まれない事はある。行動を引き起こす力となれる。

 だから青と赤、どちらが良いという訳ではない。人が生きるには赤が足らないくらいがいいのかもしれな

いとは思うが、青に塗り潰されてしまったら、きっと何もできなくなる。

 難しい。

 結局、赤と青、どちらにも振り回されている。

 何の為にそうなのか、誰も知らない。




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