大きなリブンと小さなキウィ


 ある所に大きな大きなリブンという男がおりました。

 リブンは体も手も足も頭まで大きくて、のっしのっしと力強く歩きます。余りにも大きくて、皆近付く

だけで怖がっておりました。

 リブンの隣には小さなキウィという女の子が住んでおります。

 キウィはとってもかわいらしいのですが、頑固で気が強く、一度言い出したら聞かない所があります。

 この二人は見た目はまったく違いますが、どこか似ていて、多分とても気があったのでしょう、すぐに

仲良くなりました。

 珍しい組み合わせだと人々は驚き、どうなるものかと興味をもって見ております。

 この二人、初めは上手くいっていたのですが、ふとした事から妙な事になりまして、言い争う事が増え

るようになっていきました。

 言い争うとなると大きなリブンの方が有利です。

 その大きな体を利用して、思い切り自分の意見をぶつけます。

 キウィは強い女の子でしたが、そんな思い切りでっかいのにぶつかられては堪りません。たびたびへこ

んでしまうようになり、その事でまたけんかしたりもし、いつしかどうにもならなくなっておりました。

 それでもリブンはキウィが好きだったのか離れようとはしませんでしたし、キウィが怒れば謝る事もあ

ったようですが、それがまた不思議と気に障るようで、キウィはいつもぴりぴりしておりました。

 キウィもリブンの優しさは解っていたのですが、ほんとうはちゃんとけんかしたかったのです。キウィ

ももっとリブンのように素直な気持ちをぶつけて、言い合いたかったのです。

 それなのにすぐに謝るから、気持ちのぶつけようがなくて、キウィはいつも最後は何も言えなくなって

しまうのでした。

 リブンの方は体全体で気持ちをぶつけられるから良いでしょう。でもキウィは小さくて小さくて、そん

な事をされると自分からは言えなくなるのです。

 だから最後はいつも不満がたまって、それでもまだずかずかと大きな体を寄せてくるリブンに対して腹

が立ちましたし、何だか好きではなくなってきたのでした。

 キウィはリブンを避けるようになって、新しい友達を探しました。すると丁度良くそこに楽しい人が現

れましたので、そっちとばかり話すようになり、ますます二人の関係はこじれていったのです。

 リブンは相変わらず大きな体で新しい友達がどうのこうの文句言ってきますし、キウィはそれを聞いて

いるしかありません。初めは好きだったので、何だか申し訳ないという気持ちがあったのです。

 でもやっぱり不満は不満ですので、キウィは態度を変えようとはせず、新しい友達の方と仲良くやって

おりました。

 リブンの不満もたまる一方です。

 何故自分に会わない。何故そいつとばかり会うんだ。などといつも腹を立て、キウィを責めたのです。

 キウィにもその気持ちは解ったのですが、リブンはあまりにも大きいので、何を言っても重くのしかか

るのでした。しんどいのでした。

 もう少し軽くて小さければ、キウィも聞いてくれたのかもしれませんが、大き過ぎたのです。

 その友達とは何ともなく、ただ楽しくお話しているだけだったのですが、リブンはいつも信じてくれな

いですし、重苦しく大きいので、息苦しくなってまいりました。

 だからもう耐えられなくて、友達とも誰とも会わなくなり、どこかへ隠れてしまったのです。

 リブンはキウィが好きでしたし、何をされても好きでしたので、おろおろしましたが。何だかその態度

には腹が立ってきましたので、大きな手紙を何通も何通も毎日書いて、キウィの家の郵便受けに入れたの

です。

 そのほとんどはキウィに対する不満でしたが、最初の頃はまだ優しさが詰まっておりました。

 でもキウィが帰ってこないと手紙を読んでもらえないので、いつも返事がないので、益々不満がたまっ

て、手紙の内容も乱暴できついものになっていきました。

 ただでさえでかい手紙、一通も出せば充分ですし、結局同じような内容なのですから、毎日書く意味も

なかったのですが。リブンは毎日出す事が誠意だと勘違いしておりましたのです。

 そういう押し付けがましい所が嫌われた原因だというのに、リブンはいつまでも気付かず、ずっと書い

ていたのです。

 でもまたしばらくすると、ちょっと反省したのか、内容には優しい言葉が混じるようになりました。

 ですが結局大きな手紙を何通も出す事には変わりありませんので、それは見る者をうんざりさせてしま

うのです。

 久しぶりに帰ってきたキウィもそうでした。

 仕方なしに手紙を全部読みましたが、まあ多いは重たいは、読むだけで息苦しくなってまいります。

 もううんざりしたので気晴らしに友達と会うと、そこをずっと待っていたリブンに見付かって、またも

や文句を言われました。

 確かに黙って消えたのは悪かったですので、キウィは黙っていましたが、もう会う気は完全に失せてし

まいました。

 それで一応ごめんなさいと言ってリブンを返し、それからまたどこかへ隠れてしまいました。

 リブンは家に帰ってキウィを待ちましたが、いつまで経っても来てくれません。

 ようやくまた消えられてしまった事に気付いて、慌てて探したのですが、小さいキウィはどこにも見付

けられません。

 小さいので、大きなリブンからは見えないのです。

 リブンは怒りましたが、少し暴れるとすっきりしたのか、また大きな手紙を出し始めました。彼にはそ

れしかなかったのです。自分の気持ちを書いて、押し付ける事しか、できなかったのです。

 しばらく返事のない手紙を出すだけの日々が続きましたが、二人の共通の友達がそれを見かねて、一度

会わせてあげる事になったのです。

 リブンがどうするか心配だったのですが、少し反省しているようで、大人しくキウィの話を聞いていま

した。でもまたしばらくすると勝手な事を言い出したりして、なかなか結論が出ません。

 とうとうしびれを切らせたキウィがお別れの言葉を言い出しますと、リブンはしょぼくれた顔で、でも

強がって、それを受け容れました。

 本当は諦めたくなかったですし、泣いてましたが、強がってしまったのです。

 最後まで何も言えませんでした。

 そしてキウィは言います。あなたの気持ちは嬉しいけれど、あなたという人は何もかもが一々大きすぎ

るの。それでは小さな私はたまりませんよ、って。

 リブンは自分の過ちに気付いてましたが、もう後の祭りです。

 未練を残しながら、受け容れるしかありませんでした。

 でも後悔は残っていますので、いつまでも大きな体で、重い心で、リブンは独り、暮らす事になったの

です。

 キウィの方はリブンのもとを離れて、すっきり旅立ったという事です。

 リブンはキウィを忘れられないながらも、独りぼっちでいるしかないのでした。

 ただ少しだけリブンは、自分の体を小さくするようになりました。キウィの一言が、ずいぶん身に染み

たのでしょう。

 おしまい。おしまい。




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