グッジョブ


 拳を握り、親指立てて、グッジョブ。

「グッジョブ」

 通りすがりにグッジョブ。

「お前にグッジョブされる覚えは無い」

 しかしそれがいつも受け容れられる訳じゃない。

「でもオレにはあるのさ。オレはあの時のグッジョブを忘れない」

 だが理由があればそんな不安は無意味か。

「お前はあんな些細なグッジョブを覚えていたのか」

 思い出せば理解できる。

「人から受けたグッジョブは、絶対忘れない」

 心意気、信条こそが人を強くする。

「そうか。だがやはりオレにはそのグッジョブを受け取る意志はない」

 理解と受け容れるとは、また別の感情なのだ。

「何故だ、何故グッジョブを否定する」

 人はいつから人を否定するようになるのか。

「グッジョブは否定しない。だがオレにとってのグッジョブは、そのように軽いものではない」

 重みというものがあるのならば、やはり感じ方も人それぞれなのだろうか。

「オレもグッジョブを軽くなんて考えていない」

 拳を握り、親指立てて、グッジョブ。

「そんなグッジョブなど無意味だ」

 しかし否定する事が目的であるかの如く、一蹴。

「馬鹿な、オレのグッジョブ自体まで否定するのか」

 驚きは人を震わせる。

「まだ解らないのか、グッジョブなどと軽々しく親指立てる愚かさが」

 その上で否定する。

「何故だ。グッジョブ以上にグッジョブな事はなく。グッジョブ以外のグッジョブはない。親指を立てる

事がグッジョブではないのか」

 そうだ、そうであるはずだ。

「それは違う。むしろそう考える事こそが、グッジョブに対する冒涜なのさ」

 しかし何も届かない。

「違う、グッジョブはグッジョブであってこそのグッジョブ。ならば親指否定な,ど・・・」

 抗う心は挫けない。

「否定している訳ではない。グッジョブはあくまでもグッジョブであるべきだと、そう言っているのだ」

 挫こうとする意志も、また簡単に消える事はない。

「ならばオレのグッジョブだけを否定しているのか」

 これは聞き捨てならない。

「違う。お前全てではなく、あのグッジョブが問題なんだ」

 譲歩したのか、それともより大きな問題提起か。

「このグッジョブの、一体何が不満だというんだ」

 拳を握り、親指立てて、グッジョブ。

「それだ。その単純に形を作れば良いと云う心。その心がグッジョブを卑しめる」

 核心を突く言葉。

「何故。どうしようとグッジョブには違いないじゃないか。これはグッジョブだ」

 腑に落ちない、納得など出来る筈がない。

「違う。グッジョブはあくまでもグッジョブでしかない。しかしそのグッジョブにはグッジョブ足る心が足

りない。グッジョブはグッジョブという形ではないのだ」

 一気に決めようとする。

「心か、心と言うのか。しかしグッジョブはあくまでもグッジョブ。それ以上でも以下でもない。ならばこ

の形こそがグッジョブ」

 拳を握り、親指立てて、グッジョブ。

「その傲慢さがグッジョブを・・・」

 遂には怒りが宿ってしまう。

「違う、お前こそグッジョブに拘るあまり、グッジョブを見失っている」

 試みる反撃。

「何を言う。そんな、馬鹿な事が・・・」

 不意を突かれ、暫し戸惑う心。

「グッジョブとはグッジョブでしかない。形も心も無い。グッジョブはグッジョブ。それでいいはずなんだ。

だからこそグッジョブは今も尚・・・」

 成功したかと思いきや。

「愚かしい。そのような理想論など、最早意味を持たない」

 一蹴され、再び優劣が交代す。

「くっ・・・、しかしオレのグッジョブは、あくまでも・・・。それにお前だって理想論で・・・」

 二転三転する場に付いていけない心。

「くだらぬ。何の為にグッジョブが生まれたか。生まれたものには、全てその意味がある。お前はそれを見

失っている」

 ついに決定付けられる結末。

「そうかもしれない・・・。でも、オレのグッジョブにも生きる道はあるはずだ」

 護るべく撤退する魂。

「愚かしい妄執だ・・・」

 怒りは憐れみに変わる。

「オレはオレのグッジョブを求める」

 拳を握り、親指立てて、グッジョブ。

「・・・・だからお前は・・・・。いや、良いだろう。もう良い。お前がそうしたいなら、そうしろ。後は

時間が証明してくれる。しかし言っておこう、必ずお前はグッジョブに打ちのめされる、必ずだ」

 破れた者は去り、勝ちたる者は残されても尚追わず、勝ち誇るでもなく息を吐いた。

 こうして両者再び別たれ、それぞれのグッジョブを求め、それぞれのグッジョブに従う。

 しかしどちらもグッジョブである事に違いはない。だからこそグッジョブはグッジョブである。

 世界には人の数だけグッジョブがあるだろう。

 いつも貴方の胸に、・・・・グッジョブ。


                                                         了




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