疾駆八苦


 生、老、病、死、愛別、憎会、不得、盛苦。

 人にある八つの苦しみ。人はその中を始まりから終わりまで駆け抜けては過ぎていく。

 でも本当に苦しいのはそんな事じゃない。

 不愉快なのはそういう事じゃない。

 一番辛いのは上手く重ならない、ぴったりと合わない。丁度良い場所からすり抜け、通り抜けてしまう

悲しみ。

 つまりしっくりいかない事。

 八苦も敢えて言えばそれから始まる。上手くいかない、望む場所から少しずつ外れてしまう。そんな苦

しみと足掻きから全ては始まる。

 生きに生きて数十年。今更ながらそう思う。

 人はいつも外れていて、それを何とかぴったりはめようと必死に生きている。

 地震の中で針の穴に糸を通すような、そんな事を望んでいる。

 どんなに頑張っても上手くいきっこない。

 でもやらなければ可能性すら無い。

 それを多分生き地獄というのだ。

 だから人は妥協して、時には投げ出して、何となく合ったような気になって生きていく。

 何も満足は得られないけれど、どこからも外れてしまうという恐怖よりはまし。

 でも結局何も合ってないのだから、いつもしっくりこないで居る。

 一生懸命やっていたとしても、その過程に満足できる時があったとしても、結局はいつも不満で、それ

が叶ったとしても虚しいだけ。

 最後にはいつも虚しくなる。

 求めている場所から外れているのだから、それは当たり前の事。

 だからといって頑張り続ければ上手くいく話でもない。

 頑張っても結局合わないのだとしたら、それは虚しい人生。

 どちらを選んでも、最後はいつも不満でしっくりこないのかもしれない。

 その上人生は風のように過ぎていく。

 こんな事を思う暇さえないのかもしれない。

 だから人は不安なく生きていく。たまに自分でも不思議なくらい焦ったり、動揺したりするけど、そん

な事は日々の営みの中で忘れてしまう。

 結局なんだと考えても答えは出ない。でもそれはそれで良い事なのかもしれない。

 けれどやっぱりしっくりくる人生を、そこまでいかなくてもせめて別の何かではぴたっとはまっていた

いとは思っている。

 だから頑張るけれど、やっぱりいつも外れていく。

 何が書きたいのか、何を見せたいのか、何を思わせたいのかも解らないまま、こうしてただ書いて過ぎ

ていく。

 それもまた人生。

 でもやっぱり、しっくりくるものを残したい。

 一体どこへ向かっているのだろう。

 それくらい解れば、良いと思うのに。




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