浮遊の箱舟


 あれからどれだけの時が流れたのだろうか。

 数ヶ月?数年?いや、もっとかも知れない。

 相変わらず真っ黒な空間に輝く星々がちらちらと瞬いている。時折、ガスや岩片が機体を掠めるよう

に過ぎ去っていく以外には何も見えず、聴こえず。

「はあ、面倒な仕事受けちゃったなあ・・・」

 幾つもの星系を渡り歩いて来たが、これと言うものが見付からない。

 居るにはいても、手持ちの機材と道具ではどうしようも無いものばかりだ。機械型生命体、本惑星と

環境が違い過ぎる星、すでに他の文明の手が及んでいる星。

 最近はどこも活発に活動し始めた為に、良い素材が見付からない。

 そしてあれよあれよと言う間に、こんな遥か彼方の星系までも来てしまった。

「この辺は進化も全然進んでいないんだよなあ・・・」

 まだ生まれて間もない星系には生命どころか、その育成の土台となる環境すら整っていない惑星が多

い。あっても、バクテリア等にはまだ手を加えるのは早過ぎる。

 あくまでも基本の進化は自然に行われなければならない。

 それが絶対的なルールなのである。

「ふーん、良い光を放つ星があるなあ・・・」

 眩しく光り輝き、活発に活動している惑星を見付けた。おそらくこれがこの星系の中心なのだろう、

そこそこ成長していて、進化促進環境改善の為に都合の良い光を放っている。ただ、少し刺激が強過ぎ

るみたいだが。

「ふむふむ。この刺激線をどうするかがこの星系のポイントな訳だ」

 この星系にはおおよそ九つの惑星があるようだ。もう一つちらちらと居るみたいだが、この惑星だけ

動き方が違うので良く解らない。他の星系から紛れ込んで来たのか、はたまた移動型惑星なのか惑星型

宇宙船であるのか。

「あっちゃあー、こんなとこまで手が及んでる」

 その中にある2,3個の惑星にはすでに他の文明の手が及んでいるようで、順調に進んでいるようだ。

まあ、新しき者達が育つのを見ているのは悪く無い気分。

「おっ、あの星は大変都合が良いじゃないかい」

 諦めようとした時、一つの惑星を見付けた。その星の生態系はぎりぎり手を加えても良いレベルまで

進化をしていたので、おそらくつい最近その段階に達したのだろう。その所為で今までどの文明も干渉

出来なかったのに違い無い。

「ラッキーだな、忍耐もしてみるもんだ」

 都合の良い事にその惑星には衛星が一個くっ付いていた。

 そこでここに仮の住まいを建てて、住み込みで仕事をする事にした。こんな良い物件が見付かるなん

て信じられない。

「よしよし、私が良い感じに育ててやるからな。この環境なら・・・まずは爬虫類からやってみますか」

 こうして私はこの生命の進化をじっと見守る事にした。いずれ我らの同朋となれる事を信じて。

 生命進化は博打のようなもので、偶然と言う不確かなもので作用される。手を加えられるのも進化を

促進させる事くらいで、基本的な流れを操る事は出来ない。

 だから我々のレベルにまで達せられるかどうかは、あくまでもその生態系の運命と言う事になる。

「はよ宇宙に出て来いよ。そして共に歩み出そう」

 そしてその惑星は現在も少しずつ進化中である。爬虫類は失敗、涙ながらもリセットし。哺乳類へと

系統を変えたと言う哀しい出来事もあったものの、概ね順調である。

 ただ、この種族は好戦的過ぎるのが玉にきず、ただ好奇心が旺盛なのは非常に良い。可能性を秘めた

種に育ちつつある。

 宇宙にも進出したし。ただそのせいで月のマイホームが見付かりそうになって冷や冷やする毎日を過

ごしている。

 この星系の他の惑星はほとんどが失敗しているのに比べれば素晴らしい出来と言って良いと思う。

 でもまだまだこれからだ。彼の者達の未来に輝ける光あれ。私はずっと見守っている。

 さあ、早くその星から出ておいで。

 そんなお話し。


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