かぼちゃの貯金箱


 僕の持ってる貯金箱、それがかぼちゃの貯金箱♪

 ちょっとおどけた貯金箱、へんてこでこぼこ貯金箱♪

 それは生まれて一年目の誕生日、ひょっこりやって来た貯金箱♪

 色とりどりではありません、可愛いお顔もありません♪

 へんてこでこぼこ貯金箱、おもしろぶさいく貯金箱♪

 その貯金箱はいつもベットの側に置いてあります。不思議といつもそこにありました。

 僕も理由を知りません。僕が置いたのか、それとも誰かが置いたのか。誰も知らずにそこに置いてあり

ます。いつもいつもそこに居りました。

 ランタンでは無いので、可愛く悪戯っぽい顔もありません。どこを触ってもつるつるでこぼこなのです。

 色はかぼちゃ色で、自然のまんま。かぼちゃも生まれた時のままなのです。

 ある日僕は思いきって尋ねてみました。

「なんでいつもそこに居るの?」

 するとかぼちゃはこう言います。

「僕がただのかぼちゃだとでも思ってるのかい?」

 あれれ、逆に聞かれてしまいました。僕はうんうん言って考えましたが、とても答えが出てきません。

ただのかぼちゃでないかぼちゃって何だろう。

 ずっと考えてると、呆れたようにかぼちゃは言いました。

「何を考える事があるんだい。この穴を見れば解るだろ、僕はかぼちゃの貯金箱なのさ」

 そうか、そうだった。かぼちゃは貯金箱だったのです。

「でもねでもね。いつまで待ってもお金を入れてくれない。もう何年経っただろう。ざっと10年は経っ

てるよ、いいやきっと経ってる。それなのに僕には一つのコインも入ってないのさ。これが貯金箱って言

えるのかい。これじゃあただの空気箱になっちゃうのさ」

 かぼちゃはつるつる光りながら言いました。とても辛そに言いました。

 お金の入ってない貯金箱。手紙の入らないポスト。クッキーの入って無い御菓子箱。

 そのような物が果たしてその物だと言えるのでしょうか。いやいや、とても言えますまい。

「だからずっとここに来て、こんな目立つ所で待ってるのに。一体いつになったら僕にお金を入れてくれ

ると言うんだい? 僕はいつまで空気箱で居れば良いって言うんだい? それともそこにある、そうさそ

れさ。そのクッキーを入れて、御菓子箱にでもなれって言うのかい? クッキーなんか僕の穴には入れ

て欲しく無いのさ」

 かぼちゃはいよいよ辛そうです。しかも何だか赤くなって来ているように思えます。これではただのレ

ッドパンプキンになってしまいます。どっかの競売で売られてしまいそうです。

「でもでも、でもでも僕はお金なんて持ってないよ。君にはだから、大人になったら入れようって言われ

てる。それまでお金は貯められないって言うんだ。だから僕には入れられないよ」

 いくら言われても、僕にはお金がありません。無い物は入れられないのです。

 するとかぼちゃは怒りました。ぷんすかぷんぷん怒りました。

「無いって一体どういう事だい? 無いって事は無いって事かい? それって僕にこのまま空気箱になれ

って言う事かい? えーい、僕がでこぼこなだけのかぼちゃと思うなよ。そらッ!」

 かぼちゃはそう言うと、僕の見てる前で震え出し、勢い良くごとりと横に倒れました。そしてごろごろ

ごろごろ窓へ行き、ごろごろごろごろ逃げました。家の外へと逃げました。

 哀れこのかぼちゃは、かぼちゃのころがり箱となってしまったのです。

 もう誰もかぼちゃにお金を入れてくれる人はいないでしょう。誰が転がってるかぼちゃが貯金箱など

と思うでしょうか。

 当然かぼちゃに誰も話しかけてもくれません。

 だからかぼちゃは悔し紛れに歌いました。

 僕はかぼちゃの貯金箱、ごろごろ転がる貯金箱♪

 どなたか僕に入れて下さい、コインを一つ入れて下さい♪

 そしたら大事に守りましょう、コインを大事に守りましょう♪

 けれどもやっぱり誰も入れてくれません。

 それからどれだけ転がったでしょう。ふとかぼちゃを呼ぶ声が聞こえてきました。

「おや、この不幸なかぼちゃを呼ぶのは誰さ? 貯金箱になり損ねたかぼちゃを呼ぶのは誰さ?」

 ようやく僕が追い付けたのです。僕は気が付いたのです。たった一つだけあったコインに。

 それは貯金箱をくれた時、初めて入れるようにと渡されたと言うコインでした。ずっと前の話、ずっと

小さい頃の生まれたての話ですから、誰もがとっくに忘れてたのです。

 そのコインはくたびれて埃塗れでしたが、機嫌よくこう言ってくれました。

「僕を是非是非入れてくれよ。ずっとこの日を待ってたのさ」

 そして僕はようやく貯金箱にコインを一つ入れてあげられたのでした。それはチャリーンと響いた一つ

の音が、三人の笑い声に変わった瞬間でした。

 満足したかぼちゃはそれっきり話すことはありませんでした。

 だけど僕は時々思い出して歌います。

 不思議な不思議な貯金箱、へんてこぶさいく貯金箱♪

 だけどかぼちゃの貯金箱、それは楽しい貯金箱♪

 いつかいつかその時に、出会った二つは笑うでしょう♪

 そして僕も笑うのです、楽しく楽しく笑うのです♪

 そんなお話。                                   了

    


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