決意の表明


 A君が決意を表明しました。

「私、AことAは今日を持ちまして、Bとなる事を誓います」

 即座にB君が決意を表明します。

「私、BことBは今日を持ちまして、Cとなる事を誓います」

 こうして順繰りにアルファベット君達は決意を表明していき、最後にZ君がAとなる事で合意され、可決され

たのです。

 しかしそこでBとなった元A君であるB君がまた決意を表明しました。

「私、Bこと元Aは今日を持ちまして、Nとなる事を誓います」

 即座にCとなった元BであるC君が決意を表明します。

「私、Cこと元Bは今日を持ちまして、Aとなる事を誓います」

 ここで議場は騒然となりました。

 当然です。

 さっきの表明では皆が一つずつ順繰りに移動する事で問題なく済んだのですが。ここでCこと元B君が、つま

りC君がAになってしまうと、もう規則正しく変わる事ができなくなり、誰がどこに移っていいのか解らなくな

ってしまうのです。

 誰もがC(まだ認められていないので、AではなくCのままです)君に反対意見を表明し、認可しないと言い

張りました。

 これは混乱を避ける為にはしかたのない処置と言えたでしょう。

 C君はある意味でルール違反を犯したのですから。

 しかしC君はその上でまた決意を表明しました。

「私、Cは確かにB君とは違う意志を表明しました。しかしだからと言って私の方が正しくないとは言えないと

いう事を、ここに決意を持って表明いたします」

 再び議場は騒然となりました。

 言われて見れば確かにそうだからです。

 この議場には先に言った者勝ちというルールはありません。誰もが好きに決意を表明して良い場なのです。

 こうなると黙っていられないのがZからAになったA君です。

「自分はZとという一番最後の文字であったのに、いつの間にか一番最初の文字になってしまいました。

 確かに自分でそう決意を表明したのですが。それは皆が同じように表明していくので、自分だけが対抗するの

は難しいと考えたからです。別にAになりたい訳ではなく、むしろZの方が気に入っていたのです」

 そしてA君は新たな決意を表明しました。

「私、Aは今を持ちましてZに戻る事を誓います」

 議場は三度目の騒然を迎えました。

 このA方式はC方式が二つ戻るのに比べ、一つしか戻りません。つまりこれは第三の勢力が現れた事を意味す

るのです。

 その上、このA方式は元に戻るという特別な意味を持っているのでした。

 皆元BであるAに従うようにして決意を表明してきましたが、考えてみると別にそうしたかった訳ではありま

せん。ただその場の気持ち、勢いに流されてしまっただけであって、実際には元の方がいいのでは無いか、そん

な風に思っておりました。

 そこにこのA方式案が出たのです。飛びつかないでいろという方が難しいでしょう。

 次々に同じ決意を表明し、皆元のアルファベットに戻りました。

 残っているのはNになる事を表明したB君と、Aになる事を表明したC君ですが。C君の方は元AであるB君

がそのままで、今AであったはずのZ君がZに戻りましたので、Aが空いている事になります。どさくさに紛れ

てAになる事は簡単でした。

 後はB君がそのままBでいれば全てのアルファベットがきちんと揃う事になります。

 B君は焦って、HになるだのXになるだの次々と決意を表明しますが、もう誰も聞こうとはしません。B君は

Bでいるしかなくなりました。

 こうしてB君はただ一人望む文字にもなれず、元にも戻れないアルファベットになったのです。

 その影響を受ける人は、ちょっとだけB君っぽくなるのかもしれませんね。

 そんなお話。




EXIT