黒白の帝


 この世の中は黒悪魔と白悪魔から成っている。

 いや、強引かも知れ無いが、そうであるから仕方が無い。

 それは陰陽と言われ、光闇と言われ、或いは善悪とも呼ばれる。しかし所詮はどちらも悪魔であり、同

じものであるには違いは無いのだ。

 そう、実はどちらも元を糺せば同じものなのである。

 つまりは悪魔だ。しかも悪魔。どうしようなく悪魔である。とにもかくにも悪魔であり、切ない程に悪

魔であった。

 しかし同じ悪魔であっても、白と黒と言われているように、この二種の悪魔は少し違う。そう、色が違

うのだ。しかも白と黒、真反対と言われる色であるだけに、この二種はとても仲が悪いと思われがちなの

だが、そんな事も無かった。

 それどころか色が違うからこそ、余計に仲が良かったりしている。

 人間達は自分の都合の良いように悪魔達を区別しているだが、しかし悪魔達自身はそんなモノはまった

く気にもしていない。

 光だとうと闇だろうと、陰だろうと陽だろうと。何せどちらも所詮は悪魔なのであり、悪魔達にとって

みればどうでも良い。悪魔達にとって色違いである事はさほど重要では無かった。

 それが重要なのは不思議な事に、この悪魔達とはまったく、と言う訳でも無いが、さほどに関係の無い

人間達の側なのである。

 これは悪魔達にとってまったくもって良い迷惑であり、真に心外でもあった。

 何故ならば、人間達がそうやって勝手に黒白の名を使っているおかげで、この悪魔達は生みの親であ

る神から余計な恨みを買ってしまっているのである。

 勿論、全知全能に近く、愛の化身とも言える神が他の存在を恨むなどとは、まったく考えられない事で

あるのだが。それでも多少の哀しみにも似た、そう言う曖昧な八つ当たりにも或いは似た感情を、この悪

魔達にぶつけられるのである。

 何しろ神は大いなる存在であるからして、ほんの少し心の片隅に思って居る程度であっても。天界と真

反対と言われるここ魔界にまで、その陰気と言うか、嫌な気持ちが届いてしまうのである。

 ソンナモノを年がら年中浴びせられては悪魔達もたまったものでは無かった。

「オイ、白いの・・。オレタチに対して、これではいくら同じ神の子であり、兄弟であるニンゲンドモだ

としても。・・・いくらなんでも失礼ってモンダゼ」

「アア、確かにソウダナ。いくらニンゲンだからって、これではアンマリトイウモノダ。一体オレタチガ

なにをやったとイウンダ」

 今日も今日とて、そんな陰気のオーラが彼らに降り注ぐ。何しろこの世は白悪魔と黒悪魔から出来てい

るのだから、そのオーラも全ては悪魔達が受け取らなければならない。他に肩代わりしてくれる存在は何

処にもいないのだ。魔王などと言う都合の良い存在もほんとは存在していない。

 神にしてみれば、或いは人間達を戒めるために、人間達に向ってそれを発している可能性もあったのだ

が。しかしどちらにしても、所詮は行き着く先はこの二種の悪魔になるのである。真に悪魔にとっては良

い迷惑であった。

「ナンカこう、上手くイカンカナ。例えばさ、こうワレラの肩代わりしてくれるような、そんな都合の良

い存在はイナイモノカナ」

「イヤイヤ、それは無いだろうゼ。何しろオレタチはそう言う一切の負を請け負う為にツクラレタノだか

ら。オレタチこそがそのツゴウノイイ、存在なのだ」

「ソウカ、ならばオレタチは死ぬまでこのままナノカナ・・・・」

「イヤ、ワレラは死ぬ事は無いから。永遠にこのままダ」

「ソンナモノカ・・・」

「アア、ソンナモノサ・・・」

 二種の悪魔は溜息を吐く。

 人間が人間にやっている事が人間に返って来るのは良い。悪魔がやった事で、その咎が悪魔に返って来

るのも仕方が無いだろう。

 しかし人間が勝手にやっている事で、そんな事まで悪魔のせいにされてはたまらない。

 自分達のやっていない事まで責任をとらされるなんて、そんな酷い事があって良いものだろうか。

「ソモソモ、オレタチは何の為に存在しているンダ??」

「オレモそれが解らない。罪は全てオレタチのせいにされ、どんな場合でも最後は結局オレタチは酷い目

に合わされるんだゼ。多分オレタチハ人間達が言うスケープゴート、つまりはイケニエってワケさ」

「オレタチは唯一スクワレナイ存在ってことカイ。ああ、オレモニンゲンに生まれたかったな」

「オレモだよ。まったく、ニンゲンは気楽でイイ」

「マッタクダ・・・」

 こうして魔界や冥界などと呼称される場所には常に悪魔の溜息が満ち。それによってとても陰気な空間

となっているのであった。しかもそれに神の陰気なオーラまで加わるのだから、相当ジメジメしてて、嫌

な世界であるに違いない。

 まったくもって悪魔に生まれなくて良かった良かった。

 皆さんがもし魔界へ行く時は、くれぐれもマスクと消臭剤を忘れずに。

 そんなお話し。




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