行け、無敵のヒーロー ガッジュマン


「ガッジュマン、ハイパーミラクル散る散る満ちるキーック!!」

 輝く閃光をまとった足先が、華麗に戦車を突き破る。

「ガッジュマン、オメガグラビトゥン光線アタァァック!!」

 全身から七色の炎が燃え上がり、交差した両腕に集中、そして振り放たれた腕から放たれた無限の光が

全てを焦土と化す。

 その過程で色んなミサイルやら爆弾やらに引火したりして大変な事になってても気にしない。ガッジュ

マンは核攻撃にも余裕で耐えられる。

 全てを滅されても生き残る。それがガッジュマン。

 彼の目的はこの国の軍事基地を全て破壊する事。

 その後どうなるかなんて解らない。正体は一介の小市民でしかない彼に、大きな事は解らない。

 とにかく嫌われ者の国家を成敗するだけ。

 軍事力だけに頼っている国だから、全ての軍事兵器を破壊するだけ。

 そうすればどれだけ兵士が居ようと意味が無い。現代戦は火力が決め手。何かそんな事を本で読んだ気

がする。

 だから壊す。全てを焦土に。

「はあはあ、ぜえぜえ、三十半ばにはやっぱ辛いぜ」

 彼は絶対に自分の年齢を正確には言わない。半ばにこだわる。そんなこだわりを持った男だ。

 しかしそんな彼も疲労には敵わない。

 運動不足でやせ衰えた手足、大してある訳でもない根性。その二つを駆使しても、十分変身しているの

が精一杯。それ以上続けると、もうとんでもない事になる。

 その上出張費も残業手当も出ない。これは仕事であって仕事ではない。

 平和を守る、正義を遂行する、という偉大な仕事であっても、儲けはゼロだ。

 迎えも来ないから、飛んで帰られる分の時間を残しておかないといけない。しかも誰にも知られず、知

られないまま任務を終えなければならない。

 派手過ぎる必殺技は彼の好みなのだが、今は正直後悔している。

 一々技名を叫ばなければ発動しないのも彼の好みだが、いい加減うんざりしている。

 よくテレビのヒーローはこんな事を毎日毎日繰り返せるものだ。

 悪の総督も毎回毎回こりもせずに地球侵略できるものだ。

 しかも小さな島国の、小さな場所をちまちま攻撃し続けて、結局そこすら占領できずに終わるのだから、

よくも続けられるものだと思う。

 敵にさえ同情する。ガッジュマンは人生の苦味が解るヒーローなのだ。

「やべえ、もうこんな時間だ」

 急がなければならない。朝のシフトが待っている。改造されたおかげで意識は持つが、基本は三十五歳

無職の体、無理がきかない。徹夜をすればどっと疲れがくる。

 それでも頑張る無敵のヒーロー、ガッジュマン。

 悪の組織がいないからこその無敵のヒーロー、ガッジュマン。

 ガッジュマンは今日も行く。あくまでもこっそりと。

 そして帰る。ひっそりと。



 ガッジュマンの朝はバイトから始まれば良い方だ。

 一番年長のくせに一番下っ端の彼は、お世辞にも仕事ができるとはいえない。足を引っ張ってばかりい

る。怒られる事も毎日だ。

 しかしまじめさだけは間違いない。そんな彼を皆がよく慕う。いや、よく使う。

 だがやっぱり仕事はできないので、その分無茶なシフトを組まされ、タイムカードもこっそり店長に改

ざんされている。そんなヒーロー、ガッジュマン。誰も本当の彼を知らない。

 ガッジュマンの昼は虚しい。間違っても一日入れない仕事のできない彼は、どうしても昼は一人になる。

 同僚と一緒に食べてもいいが、年齢差があって何となく気まずい。

 働いている時は仕事に集中できるからいいとしても、終わってみれば実感する。自分の立場、行く末を。

 若くて仕事もできる同僚と過ごすのは辛い。

 そんな人生の苦味を知るヒーロー、ガッジュマン。

 昼が終わっても何が彼を待っている訳ではない。家事といっても自分一人なら高が知れている。そんな

ヒーロー、ガッジュマン。彼は時間を持て余す。

 しかし夜になれば颯爽(さっそう)と、光り輝く粒子を発し、七色に飛び回る。そんな派手な変身ヒー

ロー、ガッジュマン。ばれるのも時間の問題だ。

 そして今日もまた飛び回る。

 世界に平和が訪れる日まで。

 この世界の流儀に従い。圧倒的な力で力を叩き潰す。

 そんなヒーロー、ガッジュマン。

 一日十分、ガッジュマン。

 いつか終わる、その日まで。




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