魔法窟


 魔法の全ての源にして、終わり無く逝き付く場所。全ての願いが一つに解け合う場所。ありとあらゆる魔

法が詰まった場所。その名、魔法窟。

 世界中のありとあらゆる人間が使った魔法の残骸、夢の欠片が詰まっている。

 それは最初の魔法使いが生み出し、だからこそ今安全に魔法が使える。望みを叶えた後に生まれる歪み、

そのおそるべき力の塊を閉じ込め、新たな魔法の糧とし、無限とも言える力に変えている。

 魔法窟が無ければとうに世界は破裂して、爆発して、ばらばらに砕け散っていただろう。

 最初の魔法使いと呼ばれる人間が現れるまでは、人はあらゆる代償と引き換えに魔法を使っていた。命を

奪われるのならまだしも、生きたまま死んでいたり、死んだまま生かされる事さえあった。

 魔法とはありとあらゆる現象の源であり、逆に言えばそこから何が生じてもおかしくない不安定という名

の無限の可能性を持つ。だからそれが自分の身に返ってくるという事には、無限の恐怖が宿る。

 俗に言われている魔法を行使する為の代償は嘘偽りばかり。

 とかげの目玉だの、生き胆だの、生贄だの、竜の鱗だの、鳳凰の羽だのといった物は必要ない。魔方陣も

特殊な呪文も、儀式も必要ではない。それらは魔法とはまた別のものだ。よく解らないから、とりあえず魔

法に似せたありあわせの何か。

 そこには法などというものは何一つ存在しない。

 魔法とは魔の法であり、人以外の存在が日常使っている不可解なる法。そこには人が用いるようなものは

一つも無い。人がどうにかできるようなものではない。

 言うなれば奇跡であり、説明できない不可思議で何の前触れもなく突然やってくるものである。

 とはいえ、最初の魔法使いが現れたのもその奇跡という偶然からだった。

 次の魔法使いが現れたのもまた偶然。

 全ては決められた事ではなく、起こりうるべくして起こった事でもなく、ただただ偶然の繰り返しの中で

生まれた奇跡。神々の意図せぬ歪みから生じた現象であり、存在。

 だから人が操る事などできはしない。

 最初の魔法使いだけがそこにある種の形を与える事に成功した。勿論、その全てもまた偶然だ。彼自身が

それを望んでいたのか、そうする為に生きたのかさえ解らない。結果として魔法窟が生まれ、その仕組みが

誕生し、最初の一人と呼ばれるようになった。

 そして文字通り世界を救ったのだ。誰に、いや自分でさえも気付かないまま。

 それは太古の話だとも、つい先日の話だとも言われている。魔法自体が良く解らないし、時間というもの

に縛られるかすら解らないのだから、それを考えようとする事もまた無意味なのかもしれない。

 魔の法なのだから、人の考える自然の摂理すら超越していてもおかしくない。

 つまりは最初から最後まで良く解らない。誰も理解できない力が溢れている場所が魔法窟。

 法ではあるのだから、それを理解する事ができれば何度でも再現できるのだろうが。それができた者は一

人も居ない。多分これからも出てこないだろう。だからこそ世界は誰か独りの物にはならず、今数多の望み

の中で、絶妙な均衡をとって存在できている。

 きっとこれからもそうなのだろう。

 自覚せぬ魔法使い達に、永劫に使役されながら。




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