まるむしころころ


 まるむしころころころりんこ。

 そこなまるむしどこへ行く。

 まるむしまるむし知らん振り。

 まるむしまるむし知らん振り。

 まるむし一匹おりました。何のへんてつもないまるむしです。

 ただただ丸く、丸いからまるむしなのです。

 でもまるむしには夢がありました。

 いつの日かまるむしは、四角くなりたいと思っていたのです。

 どうしても四角くなりたい。丸いままでは嫌だと思っていたのです。

 何故嫌かですって。それは解りません。まるむしだけの秘密なのです。

 まるむしは旅に出る事に決めました。自分を変えるには旅をすればいいと教わったからです。

 誰にですって。それは解りません。まるむしだけの秘密なのです。

 でもまるむしはどうすれば旅ができるのか解りません。

 そもそも旅が何なのかも解りませんでした。

 そこで聞いてみます。旅ってなんなの。

 でも誰も答えてくれません。皆それは深い問題だと言って、うんうん唸ってしまうのです。

 まるむしはそんな答えが欲しい訳ではなかったのですが。皆を悩ませる事が出来ると、何だか自分がと

っても賢くなったような気がして得意になりました。

 そして得意になってその日は終わりました。


 まるむしころころころりんこ。

 ころころ言ってもほんとはね。

 転がった事なんてないんだよ。

 一体誰が言ったのさ。

 まるむしは四角くなりたくて仕方がありません。

 でもその方法は解りません。

 旅しなくてはいけないのですが、旅が何なのか今でも解りません。

 解らないものをする事は出来ません。

 どうしていいか解りません。

 そこで他に方法はないのと聞いてみますと。

 じゃあ色んな虫の話を聞いてごらん、と言われました。

 そこでまるむしは色んな虫から話を聞きました。

 でも話を聞かせてと言われても、話なんてそんなに色々ある訳がありません。

 誰も彼も大体似たり寄ったりです。

 まるむしは色々聞かせてと言ってきます。

 皆困ってしまい、知恵を出し合って話を考えましたが、いい話は思いつきませんでした。

 今日も皆を困らせ、まるむしは得意になって眠るのでした。



 まるむしまるまる太ってる。

 いやいや太ってないんだよ。

 ただただ丸い。ただ丸い。

 きっとそれだけ、普通の事さ。

 まるむしは我慢できなくなって家を出ました。

 何処へですって。そんなの解りません。

 とにかく家を出たのです。旅は家に居たら出来ないと聞きましたから。

 でも家を出た所で困ってしまいました。

 これから一体どうしていいか解りません。

 仕方ないので歩きます。

 これが旅なの。これが旅なの。

 なんて自問自答しながら散歩を楽しみました。

 自分では解らないので、出会う虫、出会う虫に旅ってこれでいいのと聞いてみますと。

 皆また、それは難しい問題だと答えます。

 でもまるむしは今度はそんな答えに満足しませんでした。

 それって結局答えになっていないじゃない。

 そう言って問い詰めます。

 でもあまり虫を追い詰めてはいけません。

 怒った虫は自分の事くらい自分で考えろと言って。

 ぷんすかぷんすか去っていきました。

 虫は自分が解らなかったという事にではなく、解らない問題を持ってこられた事に対して腹を立てるも

のなのです。

 そしてそれは難しい問題だ、という言葉で誤魔化せない時は、怒るふりをして逃げていくものなのです。

 残されたまるむしは訳が解らず。

 ああ、これが旅なんだな。なんて思っていました。

 でもやっぱりそれは違うのです。



 まるむしまるむし。

 まるむしまるむし。

 まるむしいつも変わらない。

 変わらないからまるむしなんだね。

 まるむしは旅というものがちょっと解った気がしましたが、解らない事はまだたくさんあります。

 むしろちょっと解ってしまったせいで、益々解らない事は増えました。

 今までは考えさえしなかった事まで考えてしまうせいで。

 少し解ると不思議と益々解らない事が増えるのです。

 確かに旅とは難しい問題でした。

 ああ、旅って難しい。

 そんな風に悩んでいますが、悩むのも何だか楽しくなってきたまるむしなのでした。

 今なら皆が悩んでいる振りをしていた理由が解ります。

 皆楽しいからそうしていたんだね。

 まるむしはちょっとだけ大人になりました。



 まるむし少し大きくなる。

 大きくなるとどうなるの。

 大きくなってもまるむしさ。

 じゃあやっぱりまるむしはまるむしなんだね。

 まるむしはもう虫に何かを聞く事はなくなりました。

 答えを聞いたら悩めなくなってしまうからです。

 それにまるむしは答えを知らないのですから、例え答えを聞いてもそれが本当に答えなのかどうかは解

りません。

 解らない答えを聞いても、それが合っているのかは解らないものです。

 でも解らないと白状するのは嫌でした。

 そこでまるむしも解っている振りをする事にしたのです。

 それは難しい問題だ、それがまるむしの口癖になりました。

 解らない事を解らないまま悩み。

 何となくそれっぽい事を言いながら、解らない方が当然という口ぶりをする。

 でも本当はまるむしは解っているんだよという顔をして。

 それでも結局何も答えは出せない。

 そんなまるむし生を生きる事にしたのでした。

 皆もそれを祝福してくれます。

 仲間が増えたと祝ってくれるのです。

 まるむしは確かに大人になりました。



 まるむしでもね疑問です。

 それって結局どうなるの。

 まるむしただただ疑問です。

 解った振りで疑問です。

 まるむしは自分が何も変わらない事に気付きました。

 四角くなりたくて堪らないのに。

 体が角張ってくる気配さえありません。

 悩む振りは覚えたけれど。

 これではいつまで経っても四角になれない。

 何も解決していなかったのです。

 すると皆は、何も解決しないから良いんじゃないか、と言います。

 なんで、とまるむしが聞くと。

 いつまでもその事に悩んでいられるから、と答えます。

 でもまるむしは納得出来ません。

 まるむしは四角くなりたいのです。

 大人になる事なんてどうでもいいのです。

 まるむしは四角くなりたいのです。



 まるむしまるまる丸いんだ。

 結局ずっと丸いんだ。

 四角くなんて夢なのに。

 まるむしまるまる諦めない。

 まるむしは何とかしようと思いました。

 もう誰も頼りにならない、頼れるのは自分だけ。そんな風に思ったのです。

 そして確かにそれは当たっていました。

 自分の事は自分でやるしかないのです。

 それは当たり前の事なのです。

 誰も他虫の事まで変えられません。

 そこでまるむしは思いきり息を吸って、体を膨らませてみました。

 四角とはちょっと違いますが、それでも何だか良い感じ。

 全身に空気が行き渡って、少しだけ何かをやった気がしてきます。

 まるむしは嬉しくなって、毎日毎日膨らみ続けました。

 そして少しだけ膨らんだ頃、寿命がきてぽっくり死んでしまいました。

 結局四角くはなれませんでしたが。

 まるむしの体は、確かに少しだけ膨らんでいました。

 その事にまるむしは満足しています。

 願いは叶いませんでした。四角くはなれていません。

 でもいいのです。少しだけ膨らんだ。少しだけ自分が変わった。

 それだけで酷く満足出来るのです。

 もしずっと悩む振りをしていても、それこそどうにもならなかったでしょう。

 願いは叶いませんでしたが、確かにまるむしは変われたのです。今の自分から。

 行動には可能性があります。でも思考だけでは可能性が生まれません。

 考えるのは大事ですが、実行しなければ何も変わらないのです。

 何かをする事が大事なのです。

 それが自分で何とかするという事なのです。

 でもね、ただ行動すればいいって事ではありませんよ。

 気をつけないと、このまるむしのように、少し膨らんでますますまるこくなって終わってしまいます。

 四角くなりたかったのに、いつの間にかもっと丸くなっている。

 そんな事も、よくある事なのです。

 そしてそれに満足するという不思議。

 これもまたよくある事なのです。

 確かに難しい問題なのでした。



                                                           了




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