めるひぇん遊戯地獄


 溶け合っている・・・。二つのお餅がどろどろと飲み込みあうように重なり合って。

 その間も、細く伸ばされた餅先が触手のうねうねと蠢いて、新たな獲物を探している。

 かと思うと、その上から甘く煮詰められた小豆が覆い被さり、それごと飲み込んでしまった。そうし

てオハギはどんどんとその質量を増大させ、己の存在を止め処なく誇示している。

 赤い粒々が一つ一つうごうごと蠢く様も不快感を尚更描き立てる。

「何てことだ・・・・餅どころか小豆までがこうも侵蝕している何て・・・・」

 ミタラシくんは冷やタレをかきながら、その様を何も出来ずただ眺めていた。

「ミタラシー・・・・・、ミタラシー・・・・・」

 小豆から不気味な呼び声がする。もう以前のオハギくんでは無いのに、声だけは以前と同じなのが何

だか酷く哀しかった。

 小豆に混じりあっている少しのアンコだけが昔の面影を留めている。

「オハギくん・・・・・・」

 最早この小豆を止める術は無いだろう。いずれは自分も取り込まれてしまうに違い無い・・・・。

「やっぱりゼンザイくんは早く始末するべきだった・・・」

 ゼンザイくんは甘味処達の手に余るゼンザイだった。研究に失敗し、その危険性に改めて気付かされ

た時にはもう遅かったのだ。甘味処を飲み込み、無限に増殖する小豆は防甘シャッターすら侵蝕してし

まう程に強大になってしまったのだ。

「だから、あの時粒餡でなく、こし餡にしておけば良かったんだ・・・」

 いくら悔いても改善される事は無く、魂が消え去りそうな無力感に襲われる。

「せめてアンミツちゃんだけでも逃げ切れていれば良いんだが・・」

 アンミツちゃんに持たせた濃度60パーセントの塩水なら、小豆を少しは撃退出来るだろう。後はど

こまで侵蝕が進んでいるかだ。

 そうしている間も小豆はどんどん増殖し、餅もねばねばと膨らんでいる。小豆が弾ける度に限界まで

吸い込んでいたゼンザイ汁が飛び散り、それが設備内の餅壁を溶かして混じる。

 この設備の餅壁は一週間干した餅を三重に重ねてあるのだが、それすらもう持ちそうに無い。

「ミタラシー・・・・、ミタラシィィィィィィィィィ」

 変わり果てたオハギの呼ぶ声が聴こえる。自分ももう少ししたらあの中へ・・・・。

 重層防甘ガラスをゆっくりと溶かし広げながら、餅先が自分の身体に張り付いて来る。

「オハギくん・・・・ゼンザイくん・・・・・・もう終わりにしよう」

 ミタラシくんは3年熟成させた特製のタレを静かにに自分の身体に塗りたくった。

 そしてゆっくりとミタラシくんは小豆と餅に絡みつかれ、じわじわと溶け込まれていく・・・。

「ミタラシィ・・・ミタラシィィィィィィ・・・・、ウグッ!?ウゲエエエエエエエエエエエッ!!」

 ミタラシダレとゼンザイが拒絶反応を起こし、ゼンザイが苦しみながらのた打ち回る。

「アンミツちゃん・・・さようなら・・・」

「ギエエエエエエエエエエッッッッオオオオオオオオオ!!!!」



 

「う・・・・うううっ」

 幾時が経ち、ようやく応援を呼んで駆けつけたアンミツちゃんの見たモノは。設備内のあらゆる所に

転がる腐り果てた小豆と、伸びきった御餅。そしてどろっとしたタレだけでした。

 甘ったるい匂いが充満し、甘味マスク越しにも甘そうな空気を感じる中。ただ崩れ落ちるように、座

り込みそれを眺めている事しか、アンミツちゃんには出来ませんでした。

 そんなお話し。 


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