もぐぅな気分


 取り立てて何も無いけれど、何だかちょっと疲れた時はもぐぅな気分。

 少しだけ元気がなくて、でも深刻な何かがある訳でもなくて、ちょっと後悔もしながら、色んな事を思

い出して疲れてしまう。そんな気持ち。

 そんな時はゆっくりと息をして、心の奥底から全部吐き出すように息を目一杯出して、肺を膨らませて、

どんどんどんどん膨らませて、もう一度ゆっくりと吐く。

 それでも大して変わらない。そんな気分。

 梅雨時の湿気に似ている。払っても払ってもついてきて、除湿機まで買ったのにちょっと部屋の戸か窓

を開けると全部台無しになるような、そんな状態。

 どこからもそこからもまとわりつくものが襲い掛かってきて、必死で払おうとするけれど、そうすると

今度は汗が出てきてもっと不愉快な事になる。最終的にはお風呂に入ってすっきり流さないとやっていら

れない。

 それですっきりするけれど、風呂上りにべったりとした湿気がまとわりついてきて、すぐに汗をじっと

りとかく。

 服を脱いでしまいたいけれど、そんな訳にはいかない。下着の替えがいくらあっても足りない。そんな

汗かき。

 もうどうにもならなくなってきたので、「よいよいよい」とか訳の解らない掛け声と共に両腕を伸ばし

て、左右に上半身を曲げてバランスをとってみるけれど、やっぱりどうにもならない。

 けどそんな自分を思い出すとちょっと笑えてきたので、楽しくなってきた。

 そう思い込むと何だかうきうきした気分になってくるので、試しに室内をスキップしてみる。

 するとすぐ、自分は駄目な奴だ、という気持ちに取り付かれてへこんでしまった。

 でもそう考えられる事こそ、自分がまだまともでいるという証拠かもしれない。

 そう思うとまた楽しくなってきたので、ちょっと踊ってみたりする。

 するとそこを家族に見られたりして、いっそ消えてしまいたくなって、後は引き篭もるしかない。

 でも引き篭もっているのにもしばらくすると飽きてくるし、色々面倒になってくるので、ちょっと気晴

らしに出てみようかという気分になる。

 よそ行きの服に着替えて外に出ようとすると、むやみやたらに光り輝く日光が眩し過ぎて目をやられて

しまう。

 自分はもう光の下では生きていけないんだ、という気持ちになって、またむぐぅな気分になるけど、そ

れでも意地になって出てみると、意外と目が慣れてくる。

 この時、案外なんとでもなるもんなんだね、と思ってちょっと元気が出るけれど、しばらくすると自分

の体力の無さを思い知らされる。

 はしゃぎすぎたと後悔して歩行速度を落としてみるけれど、すでにはあはあ言ってしまっているので道

行く人から不審な目で見られてしまう。

 それが可愛い女子高生とかだったりすると、もう目も当てられない。多分これから暫くは自分という不

審者の話題でもちきりになるんだろうな、とか思って暗くなってしまうけれど。まあ、昼休みに話してき

もいよねー、きもいねー、と言われて忘れられて終わりだと思い直す。

 他人は自分をそこまで気にしてないから、直接何かをしでもしない限りは結構平気だ。もう会う事もな

いだろうから忘れてしまえばいい。とか思ってるとまた次の日にあったりして、とんでも無い事になった

りもする。

 人生は不思議。

 そんな気分。

 でも不思議がっていても仕方ないし、明日遭う事を恐れていても仕方ないので、とりあえず今日はのん

びりと散歩でもしておく事にしよう。

 そうして一通り歩き、自然を満喫し、そこそこ楽しんで帰ってくると、楽しみにしていたゲームなり漫

画なりDVDなりの発売日だった事に気付いて愕然(がくぜん)とする事もある。

 これもまたむぐぅな気分。

 それでもめげず、ネット通販で頼んだからすでに着てたりして、とか思っていると一日遅くなってしま

って、またこの様だよとか思ってたりもするので、やっぱり自分で店に買いに行くのが良いなとか思った

りする。

 その時にはぜひ予約をしておくべきだ。そうしないとどうせ付いてくるだろうと思って

いた特典が付い

てこなかったり、店員さんに先程売り切れました、とか言われて後2,3軒は店を回らないといけなくな

り、それでも見付からなくて結局通販に頼る事になって、更に手に入れるのが二日くらい遅れたりして、

もうどうにもこうにもむぐぅな気分になる。

 もぐぅとむぐぅって似てるよね、でも違うのかな、とか考えていると終わり無い妄想の海に沈んでしま

ったりもするから、それはもう気にしない方がいい。

 とりあえず手に入ったので、やっぱり家に居るのが一番だなとか思って遊び呆けていると、一番良い所

で家族がやってきたりして、洗濯物などを持ってったり、着替えを片付けたりしている間に何となく気ま

ずい雰囲気を味わったりもするけど、それも慣れてくると案外平気だ。

 とか思ってるとどんどんものぐさになって、たまに女友達とかきたりすると軽く幻滅される事になった

りするから注意しないといけない。

 幻滅される程好かれていない、という気持ちは山々だけれど、そう思ってしまうとそれこそ終わりな気

持ちもするので、ここは強気でいってみる事にする。

 全部、妄想の出来事だったとしても、泣きたい気持ちになるのはもう嫌だ。これはもうもぐぅな気分と

かそんな次元を超えてしまうからほんとに嫌だ。

 そんなこんなでふと時計を見ると一日が終わってたりする。外を見ると真っ暗だし、もう寝なよ寝なよ

と世界が全力で忠告してくれているような気がするけど、夜になってからが本番だという気持ちは消えて

くれない。

 昔は深夜帯の通話料金が無料だったから、完全定額制になった今も、深夜からが俺の時間だ、という意

識は消えていない。

 これは若い世代には無いだろう不思議な意識かもしれないけど、かといっていつまでも

保存しておきた

いとか、大事にしておきたいとか、古くても忘れてはいけないものだとか、そんな事を思っているという

事は全然無くて、かえって自分でも迷惑に思ってたりするけれど、結局自分の意志が弱く

て早寝早起きさ

えできないんだと思うと深刻にもぐぅな気分になるんだ。

 それでも少しぐらい良いかと思ってネットで遊んでたりすると朝になってたりして、でも見たい動画と

か放送とかが続いていたりして、別にそんな事しなくて良いんだけど自分の中に最後まで見なくてはいけ

ないという義務というか気合が生まれてたりして、なんだかんだいう間に昼になってたりもする。

 朝どころか、もう昼だよ。とか自分で自分に突っ込んでみるけれど、時間は戻ってくれない。絶対後悔

するんだけど、その時は不思議と強がってしまう自分がいる。素直になりたい。

 確かに楽しかったけれど、こんなんで良いんだろうか、何て思っているとそのまま

夜になって、ああ俺

いつ寝れば良いんだっけとか迷う事にもなったりして、もふっとしたものに包まれたくな

る。

 かといって女の子とそこまでの関係になるのは難しいので、とりあえず犬や猫でも飼ってみたけれど、

結局餌づるだと思われて、ペットにまでカモにされている事に気付いてしまったりする。

 女だけでなく、ペットにまで貢がないといけないのかとか思うと、本当にもぐぅどころの話じゃなくっ

てきて、ああ、こういう所がもぐぅな気分になっているんだなと気付いた時、謎は全て解けたと思うけれ

ど、晴れ晴れとした気持ちは欠片も無くて、やっぱりもぐぅな気分なんだなと思っている内に深夜になっ

て、そのまま疲れて寝ると早寝できてしまったりもする。

 けれども目が覚めるともう昼になっていたりして、ああ、ずっと起きていた分、睡眠時間も長くなるの

か、とか思ったりもするけれど、多分それには何の科学的根拠もないと思うんだ。

 だから結局全ては謎で、悪い時は悪くしかならないんだなと悟ったような事を考えつつ、諦めるしかな

いんだろう。

 だからもぐぅな気分になってもどうしようもない。

 溜息でも吐きながら、いつか気が紛れるまで生きているしかないんだろうか。でもそんな悩みも生きて

いたいっていう気持ちの裏返しだろうと考えると、自分という人間も案外強いなと慰みのような気持ちが

湧いてきて、もう一日頑張ってみようかという気持ちになったりもするけど、だからといって何がどうな

る訳でも、何をどうする訳でもなく、いつも通りに一日が終わる。

 そんな生き方で幸せなんだろうか。

 でもどうすれば良いのだろう。何が変わるというんだろう。

 色々思うけれど、多分もう別人になるくらいしか方法がないだろうし、自分という自分はもう出来上が

ってしまっているので、嫌でもこのまま一生付き合っていくしかないんだろうな、という思いと、自分一

人くらい自分の味方になってやらないとどうするんだ、という思いが重なって、何となく生きていこうと

いう気持ちになってきたりもする、ような気がする。

 そんな事考えなくても結局普通に生きていくんだろうから同じだろう、なんて思うと、またむぐぅな気

分になって、もうもぐぅでもむぐぅでも一緒だよとか考えながら、初めからもう一度繰り返す事になった

りもして、今日もまたどうにもならない人生を生きている訳です。

 はぁ、今日もまた、もぐぅな気分。




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