猫る


 あたたかい日差しを感じると、ふと猫になってみたい気持ちになる。

 具体的にどうとは言えない。猫になる。それ以外に伝えようもない気持ち。

 太陽でふかふかになった布団にでも転がって、ただ転がって、それ以上何もせず眠りたい。

 疲れているのか。

 別にそういう訳じゃない。

 ただ思うだけだ。猫のようでありたいと。

 そうできればどんなに気持ちいいだろう。

 人間である事をたまには止めたいのかもしれない。

 慣れ親しんだ体を捨てたいとは思わないし。

 ずっとそうしていたいとも思わない。

 たまには人のまま、人らしくない事もしてみたい。

 そんな気持ち。

 だから猫。

 犬ではいけない。

 そこに気ままさがなければ、いつもの自分と変わらない気がする。

 犬は随分人らしい。人が人に飼われても、多分ああなるのだろうと思う。

 本当に飼われてしまえば、人は猫のようではいられない。

 だから人のまま、人に飼われないままで、猫になりたい。

 一時でいい。少しの間。このひだまりの間。猫でいたい。

 誰から見られても、誰に見られなくても、猫でいたい。

 そんな我侭を浮かべる頃には、腹が減っている。

 さあ、働く時間だ。

 精一杯媚売って、可愛い仕草で餌をねだらなければ。

 全てが許される。だからこそ飼っていられる。そんな猫に。

 したたかに生きなければならない。

 そこに気ままさがあっても、のんきさはない。猫もまた必死なのだと、教えられる。

 だからそういう猫は本職の猫に任す。

 私は寝子でいい。ただ眠るだけの猫でいい。

 ひだまりが消えるまでのわずかな間。少しだけ代わってくれたらと。

 今日も猫は一番いい場所で。誰も手出しできない寝顔で。独りあたたかく休んでいる。

 私の出番は今日もこない。




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