お山の大将


 今の自分を例えるなら、さしずめお山の大将だろうか。

 猿山の大将ですらない。何故なら、私はここに独りきりなのだから。

 ここでたった独り、猿すらいない。

 それでいながら独り居丈高に振舞っている。一体誰に言ってるのか。一体誰にその姿を見せたいという

のだろうか。

 私は誰もいない場所で独り居丈高に振舞っている。

 他には何も無く。小さな山、いや丘とすら言える場所で、独りふんぞり返る。

 誰に虚勢を張るのか。誰を思ってそんな事をしているのか。またはしていたのか。

 誰に聞いても答えは出せない。誰も見ていないのだから、誰が答えを出せるはずはない。それなのに自

分でもその答えが解らない。

 ぽっかりとした空間で、解らないながら、何やら独りで怒っている。

 何を怒っているのだろう。自分だけのこの場所で、何に対して怒っても、何が起こる訳も無いのに、そ

れでも私は怒っていた。

 次々と言葉だけは浮んでくる。

 罵り、嘲り、そういう言葉なら今も売るほど持っている。呆れる程使っている。

 だがそんなものが一体今何の役に立つと言うのか。そもそもそんなものが役に立つのかどうかすら、そ

れすらも解らないと言うのに、それでも私はそればかりを持っている。

 意味が無いと言われれば、自分でも何となく解る。でも持っているものは仕方が無い。そうだろう?

 だけど無駄なのは解っている。でも何故か止められない。私の口から出る言葉を止められない。

 例え誰が聞いていなくても、誰も聞いていなくても、私の言葉は溢れるくらいにそればかり。

 いつからこんな場所に居るのか。いつからこんな場所に居たのか。

 そしていつからこんなに何かを罵っているのだろうか。

 いくら考えても、思い浮かぶ事といえば傍若無人、傲慢、そのような言葉と思考ばかり。そしてそれを

振舞う、それだけの自分。それ以外に浮ばないのだから、それしか出来ない。そうだろう?

 でもそれしか出来ないだけで、それがしたい訳じゃない。なのに何故それしか出来ないのだろう。

 私はおかしくなってしまったのだろうか。それとも初めからおかしかったのか。

 そして何故こんな所で独り憤っているのだろう。

 心地良いから独りで居るのか。それとも独りで居るしかなかったのか。

 嫌々独りで居るしかないのか。それとも独りで居る事に何か意味があるのか。

 てもこの寂しさは何だろう。自分から少しでも望んでいたのなら、何故こんなに寂しいのか。何故嘲り、

罵りの言葉だけを使い、これほどまでに虚無感を感じるのだろう。

 自分で言って、何故こうまで自分が寂しいのか。

 自分で振舞って、何故こうまで自分が哀しいのか。

 何故自分で自分が憐れに思えるのだろう。

 何の為に、ここまで惨めな思いにかられてまで、私はここに居ようとするのか。

 独りぼっちの世界。自分だけの世界。確かにここならば私の思うままに振舞える。

 何をしても気にかける人もいない。何をしても怒る人はいない。誰にも迷惑がかからず、ただ己のみが生きている。

 自分勝手に生きたい。独りだけ幸せであれば良い。独りだけ思うままに生きたい。

 それが叶ったはずなのに。何故こうまで寂しいのか。

 そもそも何のためにそんな事を考えていたのだろう。本当に自分はそんな事を望んでいたのか。

 自分から寂しい道を選ぶなんて、私は本当に望んでいたのだろうか。

 でも望んでいたのだろう。こうしてお山の大将になる事を望んでいたのだろう。望んでいたから、私は

今ここに居る。独りぼっちでここに居る。

 求めていなければ、こんな場所に居るはずがない。

 虚しさを求めていたのだろう。寂しさを求めていたのだろう。独りぼっちで誰にも頼らずに、独りだけ

で生きていく。

 それがどういう事なのかを知らずに、私はそれを望んでいたのだ。

 でももし誰かが教えてくれていたら、もしくは少しでもそれを解っていたなら、私は今の私を望んだだ

ろうか。こんなに虚しい自分を、私は心から望んだだろうか。

 誰もそれを解っていないから望んだのではないのか。苦難の道を望んだのではないのか。

 知らないからこそ望む事、それが夢だと言うのなら、私はなんて寂しい人間なのだろう。

 一人ぼっちの寂しさに、耐えられる人が居るのなら、世界は元々ああでは無かっただろうに。初めから

皆が今私の居る、独りぼっちの世界に生まれたはずなのだ。

 でも元の世界に戻ったとして、一体私の何が変わるのか。

 心に浮ぶのはどれもこれも他人の悪い事ばかり。

 罵り、嘲り、傲慢に振舞う。もし帰れても、私はそれしか出来ないくせに、何故元の世界に戻りたい、

今の自分が寂しいと思うのだろう。どうせ何処に居ても、私は独りになって当然なのに。

 だから私はこの場を望んだはずだ。

 私はお山の大将になりたかったのだ。どうせ独りになるのなら、誰もいないその場所で、私は本当の独

りになりたかった。

 なのに何故、こうまで寂しいのだろう。虚しいのだろう。

 独りぼっちの世界で。

                                                             了




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