ぽっかり浮ぶ星一つ


 ぽっかり浮ぶ星一つ。

 僕はぷかぷか舟の上、ぷかぷかふわりと眺めます。

 星が少し傾き始めて、ゆっくりゆっくり動き出す。

 ゆらゆら揺れて、大きくなって小さくなって、ぽっかり一つ揺れてます。

 丸い大地を覆う海、一つだけ浮ぶ船の上、僕は一人眺めてる。

 ゆらゆら揺れる星一つ。つられて僕も揺れてしまいそう。

 速くなって、勢いついて、次第に星は回りだす。

 ぐるんぐるんと回りだし。大地もつられて回りだす。

 ぐるぐるゆらゆら回りだす。

 僕もぐるぐる回りそう。目玉がぐるぐる回りそう。

 海に波が出来、ゆっくり舟も動き始めた。

 舟は大地をぐるりと回りだす。

 ゆっくりゆっくり回りだす。

 けれども星はいつも僕の上に。

 ゆらゆら、ゆらゆら、揺れてます。

 一緒になって動く星、いつまでもいつまでも僕の上で。

 ぽっかり一つ浮いてます。

 僕は落ちないように船を掴み、いつまでも星を眺めていました。

 景色は回り、僕も回り、いつも星は上にある。

 何処まで行っても上にある。

 ぐるりぐるりと回り続けて、一回りして戻っても、やっぱり星はぽっかり一つ上にある。

 星はぐるぐる回るのを止めて、目を回したようにふらふら、ふらふら。

 すると大地もふらふら、ふらふら。

 空気もふらふら、ふらふら。

 僕もふらふら、ふらふら。

 あまりに空気が揺れるので、ゆらゆらゆらゆら揺らめいて、いつしか風が吹いてきました。

 何処から何処へ、何処から何処へ、それは解らないけれど、とにかく風が吹いてきます。

 僕は飛ばされないように舟を掴みました。

 けれども星はゆらめきを止めず、大地も止めず、どんどんどんどん風が強まります。

 ばたんばたんと舟が揺れ、今にも飛んで行ってしまいそう。

 僕は慌ててイカリを落とし、ばたんばたんと跳ねる舟の上、必死に必死にしがみ付く。

 風の勢いは更に強まり、とうとう僕自身がイカリを掴まなければならない程になりました。

 そしてぐるぐる舟が回るものだから、僕はまるで時計の針のよう。

 ぐるんぐるんと回りだす。

 小さな小さな大地だから、ほんの少しで回るのです。

 そうしてどれだけ回ったのでしょう。

 ようやく星が落ち着いて、ゆるゆるゆるりと風が止む。

 僕はふうわり落とされて、危うく海へとまっさかさま。

 何とかイカリをたどりながら、ひゅうひゅうドシンと舟へ戻りました。

 頭はぐるぐる、胸はどきどき。

 お尻も痛くてずきずき。

 ぐるぐる、ずきずき。

 あまりにも酷いので、舟の上で何度もでんぐり返しをしなければなりません。

 こうして時計とは逆に回って、僕も戻さなければならないのです。

 いくらなんでも回りすぎましたから。

 お尻の痛みは諦めて、何度も何度もでんぐり返り。

 星は申し訳無さそうにこっちを見て、しきりに何か訴えます。

 けれども僕はでんぐり返し、そんな事は知りません。

 星はぶるぶる泣き出して、いよいよ海が深くなります。

 これでは落ちたらたまらない。足が付かないと泳げない。

 僕は止めて止めてとお願いします。

 けれどもやっぱり泣いたまま、星はぽっかり泣いたまま。

 ぶるぶるぶるぶる泣いたまま。

 仕方が無いのでコップを持って、僕はずっと涙を飲み干します。

 ずっとずっと飲み干します。

 体がぷよぷよ膨らんでも、僕はずっと飲み干します。

 そしたらぷよぷよの僕を見て、星はぽっかり大笑い。

 ぷんすか怒るとまた泣き出すので、僕も一緒に笑いました。

 そしたら何だか楽しくなって、ぷよぷよぽっかり笑い合いました。

 笑う度に涙が消えて、僕のお腹も引っ込んで、いつしか小さな僕に戻ります。

 そしたらも一度星を眺め。

 ゆらりゆらりと舟の上、のんびりぼへっとしたいです。

 今度は泣かないよう気をつけて。

 もうぷよぷよは嫌なのです。

 お尻もゆっくり休憩中。




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