ぷかぷかぷかぷか揺れるもの。 海の上でゆったりと、ゆらぷかゆらぷか揺れています。 まんまるくるくるやわらかく、なによりずっとかるいもの。まるで溶けない雪のように揺れています。 一つだけどこにも行かず、海の上で揺れています。 ぽつんと浮かび、ぽつんと揺れて、寂しそう、気持ち良さそうにふわふわと浮いています。
「ううん、ありゃあなんなんだい」 鳥さんが降りてきて、その上にふうわり着地しますと、それはゆっくり沈みます。 「助けて、助けて」 鳥さんはびっくりして飛び去ってしまいました。
「おや、なんだいこれは」 魚さんが海の中から眺めていますが、何にもはっきり見えません。 飽きた魚さんはそのまま海底に戻ってしまいました。 「待って、待って」 呼ぶ声がしたような気がしましたが、魚さんはずっと奥に行ったので、今更戻るのは面倒なのです。 ふわふわしたものは大慌てで揺れていますが、もう誰も気付いてくれません。
それでも頑張って揺れていると。 「おおう、なんじゃいこれは」 むんずとつかまれ、船に上げられてしまいました。 「ありがとう、ありがとう漁師さん」 でもいきなりしゃべりだしたので、漁師さんはびっくりして海へ投げ捨ててしまいました。
それから後はいつまで経っても誰も来てくれません。 海がこんなに静かなのは初めての事です。 「ああ、ああ、何で皆助けてくれないの」 浮いたり揺れたりしゃべりますが、誰も何も来てくれません。 願っても、求めても、誰もどこにも来ないのです。 「もう波さんにお願いするしかないや」 波は何も答えませんが、少しずつどこかへ押していってくれるようです。 何も通じなくても解る時はあるのです。 「風さん、風さん、お願いだ」 すると風も応援してそちらの方へと何度も何度も吹いてくれました。 やがて海岸に流れ着き、砂浜へと打ち上げられます。 「ああ、ああ、助かった。助かったよ」 やっと助かったのです。
でもここは見知らぬ陸地、どうして良いのか解りません。 「木さん木さんお願いだ」 するとどこからか木の実を沢山運んできてくれました。 でも別にお腹が空いている訳ではありません。それに木の実は食べられません。 「ありがとう、でも違うんです」 丁寧にお礼を言って、ずっと困っておりました。 初めからどこかへ行きたかったのではなく、あの場所でいつまでも浮いていられれば良かったのです。 本当はずっとそうしていられたら良かったのです。 でも今更それを言えません。 皆助けてくれたのです。誰に文句も言えません。 「えーん、えーん、ごめんなさい」 泣いて謝るしかありませんでした。 でもそれでは何も解決しません。 結局流れ着いたまま、長い長い時を過ごし、ある日ぽっくり居なくなってしまいましたとさ。
おしまい。 |