いつの頃からか。私がここに居たのは。 もう遠い昔のように、雨降るうねりのように、さざめくままに過ぎ去っていったように思う。 それはまた一筋の流れ星のようでもあり、虹の瞬く間だったようにも感じた。
浮かぶ雲は遥か遠く、岸辺の溝にもうっすらとかかり、白い御魂が静かに座す。 黒々とした斑点が無数に広がり、大地は焦げた紅で彩られていた。 深く浅く撃ち掘られた穴が無数に広がり、その間から恐々と顔を覗かせている盟友の姿が見える。
彼はしかしなんと言う名だっただろうか。 確か。 君はもう見ることは無いだろう。 いや。 君をもう二度と見ることは無いだろう。 そんな事を言ったのか。薄れ行く記憶の向こうで、ゆったりとその盟友達が笑っている。 健やかに咲き満ちる草花のような、儚さと、そして強さを秘めた眼差しで。 或いはそれは私が言ったのだろうか。
共に笑い、共に泣き、共に哀しみ、共に楽しみ。 共に怒り、共に恨み、共に叫び、共に絶望した。 もうその君の姿を見ない。 いや、姿だけなら見ているのかも知れない。ただ目に映るモノと言うのならば。 でもその心は見えない。いや、見えないのではなく、もうそこには無いのかも知れない。 或いは消え去ったのかも。 或いは初めから無かったのかも。 どちらにしても私にはもう見えない。
今も周囲を弾ける煌きが覆う。 目に光が差し込み、あまりのその強さに我が目を細めた。 そうだ、轟音も忘れてはいけない。もう慣れてしまったのか、気にならなくなったのだが。 いや、そう言えば鼓膜がもう役に立たなくなってしまっていたのだろうか。 聴こえるようで聞こえない。そして何故か骸のような泣き声が聞こえる。
涙の音が聞こえる。 いや見えているのだろうか。もう視界も何も区別がつかず、五感全てが一体となっているようだ。 もしかすれば、それも初めから一つのものだったのだろうか。 味、匂い、光、影、そして大気と気配、その他の感覚。 まるで飛び回る死蝶の如く、この身に降り廻る。 身体はまるで泥のように融け始めており、私はもうじき大地となるだろう。 そのような錯覚すら覚えるほど、それはとても虚しく悲しい。
もう私一人だろうか。 目に見える誰もに光無く、頬が燻って見える。 哀れな程に窪んだその瞳に、果たして私は映っているのだろうか。 或いはそれが私であり、それが私なのかも知れない。 私は私である前に、その瞳に映る私が私なのだろうか。
ああ、聞こえる。戦火の声が。私が朽ちても、全ては滞りなく進む。決して終る事の無い事共に。 そして私は蓮華草の詩になる。共に朽ちた同朋と、この戦場で。 低くたなびく紫の雲のように、哀れな程そこに咲き満ちるのだろう。それはただ、永遠に。 これもまた、果ての無き生であろう。 |