スコップ


 積み重なっている。

 あらゆる物がここには積み重なっている。

 どれほど積み重なっているのか。もう物ではなくて、積み重なっているという事柄、それそのものがそ

こに乗っかっているようだった。

 小さな物、大きな物、ありふれた物、珍しい物、新しい物、古い物、思い出のある物、思い出の無い物、

記念の物、なんでもない物。色んな物がくっついて、おもちのように膨らんで、それがみっしりと連なっ

ているような、色んな物がここにはある。

 がしゃこんがしゃこんとどこかから音がして、風がどこかから吹いてきて、飛ばされないように掴むけ

ど、掴むたびに物が崩れていく。

 何の役にも立たなくなって、何の役にも立たないと思われるから、物はここに積まれて、どうしようも

ないままゆらゆらと震えていたり、諦めたり、どうしようもないから、物は積み重なるしかなくて、でも

それが嫌で、膨らむだけ膨らむけれど、膨らむそばから皆崩れていく。大きくも高くも無い、ただの小さ

な物に戻って、皆崩れる。

 ほとほとと歩いて行くと、ころころと転がってきて、つまづきそうになるけれど、無理矢理歩幅を広げ

て歩く。

 がしゃこんがしゃこん聴こえてくる。今日もまた、物が送られてきた。

 どこに置けば良いのか、もう誰にも解らない。増え続けるしかなくて、それでもどうしようもなくて、

ただ物だけが積み重なっていく。

 そして誰もがまた物を求めて、もう使い切れないくらい物はあるのに、それでももっともっとって増え

ていく。

 もう全てが物で潰されてしまうよ。

 ここには溢れるばかりの物があって、どこにもここにも積み込まれているのに、決して送られてくる物

は減りはしない。それどころか増え続けている。一体いつまで増え続けるのだろう。いつまでここに積む

事が出来るのだろう。

 スコップ片手に僕は、何が出来るのだろうか。

 掘って、掘って、掘り続けて、それでどうにかなるなんて思わない。

 いつも増え続けていて、もうこれは誰にも止められない。スコップ片手に片付くくらいなら、きっとも

う誰かが何とかしていたはずだよ。

 生まれた時からスコップ片手、黒いローブ一つを着こんで、いつまでもスコップで。

 掘って、掘って、掘り返して。それでどうにかなるなんて思っていないよ。決してそんな事は。

 みっしりと積み重なっていく。その内バランスを崩して、この積み重なった物は崩れていく。それもど

うにもならない。皆そうだった。これからも多分そうだと思う。

 いくら膨らんでも、風船のように飛べる訳じゃない。

 いくら膨らんでも、それで一つになれる訳じゃない。

 消えやしない。目を背けても、どこを見ても、物ばかりで、皆積み重なっていて、足下にある道も物が

積み重なってできている。

 スコップ片手に歩き回っても、きっと何も出来ない。

 でも何かしないと。そう思うんだ。不思議だね。

 全部捨てれば良いと思うのかい。違うよ、捨てたからここにあるんだよ。

 誰も捨てた後の事なんて、考えた事はないんだよ。もし少しでもそうしてくれてたなら、もっとここは、

この場所は、空まで物で覆い尽くされるくらい、物で埋まる事は無かったんじゃないかな。

 でも僕は他に行くところが無いから、背けたくても、どこを見ても物ばかりで、ここから逃れる事も出

来ないんだ。

 ううん、違う。きっと誰も逃れられないんだと思う。

 こんなに一杯だから、誰にも見えないはずはないんだ。どこまでも物が一杯なんだから、どこからでも

見えるはず。

 そのうちここからも溢れて、そっちやあっちへこぼれてしまう。積み重なった物が壊れたら、きっと全

部ここから溢れてしまうよ。

 だから僕がこうして、スコップで掘って、まだ小さな内に、何とかなる内に崩して、そして外へ溢れな

いようにしてる。

 でもね、もう生まれた時からどうしようもなかった物は、本当にどうしようもなくて、僕もどうにも出

来ないんだ。

 僕のせいだ、頑張らないからだって言われても、出来ない事は出来ないんだからね。怒られても困るよ。

 それに僕は減らせる訳じゃあないんだ。ただ見えないように出来るだけ、積み重なった物を崩して、あ

の天の向こうへと零れ出さないように、ほんの少しだけ頑張れる。

 それだけだから、無理しちゃうと物が落ちてきて、僕もぺちゃんと潰れてしまう。

 そしたらもう誰もいなくなるのかな。こうしてスコップ片手に掘る人は、もう誰もいなくなってしまう

のかな。

 どうなるのかな。溢れるのかな。

 溢れるのは嫌だ。仕事だからじゃなくて、その為に居るからじゃなくて、こんなに苦しそうに積み重な

って、必死に倒れないようにしてる物達が、とっても可哀想。

 物も積んでもらいたい訳じゃなくて、くしゃりと潰れても良いから、下の方へ置いてくれれば良いって

思ってる。でも運んでくる人が、皆上から投げるから、一箇所だけ空いた穴から、みんなみんな一緒にし

て入れるから、だんだんそこから大きな山が出来て、もうふらふらしてる。

 頑張って倒れようとしてるけど、あまりにも大きいから、どうしてもぷるぷる震えるだけで、倒れてこ

ない。

 僕がスコップで掘ってあげても、すぐに上から流れてきて埋まってしまう。

 一度それで潰されそうになった事があるから、物達はもうやったら駄目だよって言うんだ。潰れるから、

僕を潰してしまうと哀しいから、もっと小さな積み物だけ頑張ってみてって。

 でもね、それだと、何にもならないんだ。

 だってもう、あの穴も越えて、天からあっちへ落ちて行きそうなんだから。

 もうどっちが下だか解らないくらい、物が積み重なって、みっしりと空を閉ざそうとしてる。

 僕は頑張ってるけど、もうどうにもならないんだ。頑張ってるんだけど。でももしかしたら、何とか頑

張れるかもしれないから、僕はもっと頑張ろうと思う。

 だって、物が悲しむと、僕も悲しいからね。

 付いてる道は物の道で、昔はここにも色んな働く人達がいて、色々してたみたいだけど、今は僕一人だ

から、こうして埋まってしまって、ちょっとだけ他よりもへこんでて、だから道って解るくらい。

 下の方はみんなしっかり固まってるから、倒れたり零(こぼ)れたりしないし、踏んでも走っても平気。

 前に一生懸命走ってみたけど、どこまでも物ばかりだった。

 でもどこまでも行けるって事は、きっと良い事だから、僕は良い道だと思った。

 この物達はもう物じゃなくて、地面になってる。物がそう言ってた。こういうのを埋立地って言うんだ

って。だからもう自分たちは平気だから、他で頑張りなさいって。

 一日中がしゃんがしゃんって聴こえるから、よく聞こえない事も多いけど、物達は色々考えてる。だか

らどうって事はないんだけど、物も一生懸命だって、そう言ってた。解ってくれなくても、別に良いけど、

誰でもそうなんだよって。

 だから僕も頑張る事にしてる。無理でもそうしないと、哀しい事になるから。



 積み重なった道は、どこまでもあるようだけど、結局は物ばかりで、どこまでもあっても同じだろうっ

て、誰でもそう思う。限りないようで、限りがあるから、きっとこうして埋まってしまうんだ。

 いつまでも捨ててたら、きっとみっしりと全てが物に埋まってしまう。

 それでも今でないなら良いって、自分が生きてるうちは平気だろうって、じゃあ誰がどこで何を見て、

そんな事を言ってるんだろう。

 誰も知らないから、そんな事が言えるんじゃないのかい。

 だったらそれって、平気なのかな。

 どうしようもないから、何もしない。でも本当はどうしようもないのではなくて、何もしないから、ど

うしようもない。そうだって解ってるのに、解ってないふりするから、多分皆ごまかしてる。

 ごまかしてるから積もるのに、それでも誰も、そうでないって、言えるのかな。

 がしゃこんがしゃこん風が吹いて、しっかり地面に掴まっても、天が震えて、それが零れてきたら、一

体何処に逃げれば良いんだろう。皆ぺしゃんと潰れて、終わってしまうんじゃないかな。

 どこまでも積み重なった物が、今すぐ落ちてこないって、いますぐ零れてこないって、一体誰が保証出

来るんだろう。

 どこまでもあるから、いつまでも危険なのに。

 一人走って探すけど、何処にも空いてる場所はない。

 どこまでも探して走ったけど、どこも全て埋まってた。

 僕はスコップ片手に、いつまでも埋まる世界を見ていた。

 張り裂けるって言ったんだ。物が膨らみすぎて張り裂けるって。

 でも袋があったから、それに入れてしまえば平気だって言われて。だからそこへ行きたくて、慌てて入

って詰め込んだ。

 袋だからまだ底があるって、中が埋まって無いって、ああ空いてる場所が増えたって。でもそれもすぐ

埋まって、もっとでっかい物が出来ちゃった。ぱんぱんに詰まった物袋が。

 でもぱんぱんでも足りなくて、もっともっと入れたから、我慢できなくて、ぱぁんと弾けて溢れ出す。

 零れた物達が降ってきて、これが雨だよって教えてくれた。空から降るって、どういう気持だろう。

 そう聞いたら物は、積もる気持ちよ、ってそう言ってた。

 どうしても積もるんだね。

 騒いでたから、しんどくなって逃げ出した。

 風が吹くと、空いてる扉がばたんとしまって、とってもうるさい。

 物は勢いよく閉めるから、音を出すのが気持ちが良いっていう。

 でも僕はうるさくて、一斉に皆鳴り出すから、誰も気付かないだけで、きっと凄くうるさいんだと思う。

だけど僕が我慢すれば良くて、頑張ってる。

 うるさいけど、誰も何も言わない。聴こえないふりをしてるなら良いけど、本当に聴こえないのだとし

たら、それは病気だって、物が言ってたような気がする。

 だったら物は皆病気だから、ここに捨てられたのかな。

 それとも、病気じゃないって言って、捨てられたのかな。

 治らないのかな。

 僕は今日も耳を塞いでる。

 誰か耳を開いていられるのかな。



 開いては閉じる窓のように、空の穴は毎日動かされ、毎日そこから物が降ってくる。

 積み重なる物が何かの形なら、これは一体どういう形と呼べるのだろう。

 降って、積もって、重なって、どれだけあればこの空間は満足するのか。どこまで積もれば、誰もが納

得してくれるのだろうか。

 今でもまだ満足出来ないのなら、いつまで待てば満足出来る。

 もう一杯に積もってるのに、これ以上積もらせて。要らない物なら何故作る。満たされないくらいに物

を溢れさせて、そこに一体何が生まれ。全てを捨てて何が残る。

 捨てるなら初めから要らなかったなんて、言ってはいけないのだろうか。

 どこまでもどこまでも、見渡すばかり物ばかりの、この世界をゴミと呼ぶのなら、一体どこに本当の世

界があるのだろう。

 見た事が無いのではなくて、外の世界を知らないからではなくて。多分、外はここよりももっと沢山の

物があるのだから、きっとそこは物で埋まってて、そこからこっちに零れているだけじゃないかって、そ

んな風に思えないだろうか。

 それならそこもゴミの場で、どこにも世界は広がっていない。

 どこまでも埋まっていて、物で全てが埋め尽くされている。

 その中で生きている何かが居るのなら、それは僕と変わらない。

 きっとスコップ片手に、いつまでも掘っているのだろう。

 いつまでもいつまでも、何をして良いのかを本当は誰も解らないままで、ただ手にしたスコップを動か

して、何があるのか解らない未来へ向って、何をして良いのか解らないまま、ひたすらにスコップを。

 僕もスコップを動かして、何をして良いのか解らないまま、いつもスコップを。

 きらりと光るスコップを。

 一番奥には真っ黒な壁があるのを知ってる。

 どこまで見ても、どこまで行っても真っ黒だから、きっとそういう真っ黒があるって物達が言ってたか

ら、きっとそうだと思う。

 何故黒いかって、それはその方が都合が良いからって言ってた。何故ってそこまでは解らないよ。

 僕は多分そこまで行けないから、だから知らなくても良いって教えてくれた。何となく解ってる。だか

らそこまで聞きたくなくて、道なんか知っても意味が無くて、どこにでも行っていいけど、決して果てま

で行けないこの中で、僕はずっと歩き続けてる。

 へこんだ道、固い道、でもこの道がどこかへ続いているなんて思った事はないよ。

 そんな物には、それこそ意味が無いって、何かがそう言ってた。

 だから僕もそんなものかと思ってたけど、本当にそんなものだったなんて、きっと誰も思っていなかっ

たと思うよ。

 でも多分そうなのだから、仕方ないよね。

 だってここを通るのは僕一人だけなんだから。

 今日も降ってくる。昨日も降ってきた。何故だか知らないけど、それが僕には解る。そしてきっと明日

も降ってくるんだ。

 だからどうって事じゃなくて、単に増え続けるしかないって、そんな当たり前の事を知っているだけ。

 それだけが僕の知ってる全て。

 がしゃこんがしゃこん音がして、何かがどっと降ってくる。

 そんな歌を物が歌ってるから、僕は聴いていたけど、でも多分そうじゃないから、物は歌っていたんだ

ってそう思う。

 物はそこに重なるだけで動けないから、でもその物は外から来てる。知っているけど、でも本当は何も

知らない。

 僕が聞いたのはそういうこと。

 だって、いつまでそうしているのか、いつか何か変化があるのかなんて誰も解らないんだ。

 物達は不安がってる。積んで重なって、それで終わりなら良いけれど。もしここが一杯になった時、一

体ここはどうなるんだろう。

 僕が何か出来るのかな。きっと何にも出来ないよね。

 スコップで掘る事しか出来なくて、それは何にも出来ていない。そう思える時が、きっと来るって、物

達もそう言ってた。

 何もかも黒いのは物のせいかもしれないって、そう聞いた事があるんだ。

 物はかしゃかしゃ唸って、何にも教えてくれなかったけど、多分物のせいだと思う。

 物のせいって言うのか、物があるからだと思う。

 だって何にも無ければ、黒くする必要もないんだから。

 黒いから何がどうなるかって知らないけど、多分黒くなる意味か理由があるんだと思う。

 この手のスコップも、何か意味があるのかな。



 起きては掘り、寝ては掘り。それのどこに終わりがあるのか。

 そもそもこのスコップに終わりがあるのだろうか。

 壊れれば終わりだろうか。折れたら終わりだろうか。

 大体このスコップ、どこにあったのだろう。

 どこから見つけて、何でこの手にあるのか。

 誰も知らない。僕も知らないまま、今日もスコップ片手に何かをしたい。

 何かってなんだろう。

 頑張ってどうなるんだろう。

 解らないからするしかないって、そう思えるのなら、初めからこんな事を考えはしない。

 保証がないから怖いのではなくて、保証を作れないから怖いのだって、誰かが言ったのか、僕のどこか

に残っている。

 それは記憶なのか、それとも誰かの思い出なんだろうか。

 僕には解らない。解らないままスコップ片手に。

 ゴミって言ったんだ。

 僕は思い出したよ。そうここに来る物はゴミだって、そんな風に誰かが言ってたから、僕はそれでここ

に居るんだ。

 何故って、それは解らないよ。

 僕も来たくて来たんじゃなかったと思うし、いつの間にか居たって事は、きっとそういう事だと思う。

 知らない内にここに居たから、こんなに不安に思えるんだ、多分。

 ぎっこんばったん音がして、今日も何処からか風が吹いて、どこからか響きが聴こえてきて、何で今日

はこんなに騒がしいのかな。

 何かあるのかな。何か起こるのかな。

 それとも何もないのかな。

 スコップを鳴らしてみる。

 かちゃかちゃへんてこな音がして、すくってみれば、何かの破片。

 でも壊しても、崩しても、物は平気だって言ってた。

 そんな事は問題でなくて、代わりは何処にでも居るけど、でも自分がここに居なければ、それはどうに

もならない事だからって。

 泣きながら言ってたのが変だったけど、確かにそこに物がいないと、こうして重なる事が出来ないから、

きっと必要なんだと思う。

 そこに意味があるのではなくて、何かあったから意味が出来るんだって、そんな風に言ってた。

 多分、物か誰かが。

 僕は引き返してきてる。

 いつからか忘れたけれど、引き返してた。

 解らないけど、穴があんなに近くに見えるから、多分道を間違えたのだと思う。

 でも道って何だろう。何処へ行く道なのって、誰も教えてくれなかったから、僕も知らない。

 よく解らないけれど、もう最後だね、って物が言ってた。

 哀しそうに、嬉しそうに。

 だから僕も笑う事にした。

 スコップ片手に。

 多分、意味は無いんだけど。



 その時がきた。ごおんごおんと音がして、下からぼうっと何かが上がってくる。

 酷い暑さと真っ黒な煙が覆い尽くして、そこからずっと熱くなる。

 その内少しずつ沈んで、何かが逆に燃え上がる。

 大きな炎に包まれて、これが最後だって声がした。

 全てがその内真っ赤になって、綺麗だねって誰かが言って、僕も思って。

 そうしていつか燃え尽きる。灰になって燃え尽きる。

 でも僕はそこにいて、スコップ片手に大きな炎達を見ていた。

 僕の身体も真っ黒で、そこにいた物も真っ黒で、だけどいつの間にか崩れて消えてて、何だかすっきり

と広がってた。

 何処までも見通せる中で、僕だけが何だか大きくなって、少しだけ背が伸びてる。

 両手を広げるともう空に届きそう。

 きっと全部が一つに燃えて、一つになって、それで大きく僕は上へ上へと。

 どんな意味があるのか解らない。でもそれが最後の時だって、物は言ってた。

 物は言ってた。

 ぼろぼろと身体が崩れると、先っぽに僕は立ってた。

 何故かは知らないけれど、物がそうしてくれたような気がする。

 スコップだけが片手に残って、まるでそれが世界で一つの何かのように、掘るしか出来ないスコップで

も、何だか誇らしく光って見えたんだ。

 大きくて、でも小さくて、そんなものは誰にも解らなくて。

 ただ僕はここから出ろって言われてるって、そんな風に思った。

 物がそう言ったって、僕はそう信じてる。

 だから上へ上へ、あの空に見える穴から上へ上へ。

 ほらすぐそこ、手が届く。



 外は真っ黒で、でも光り輝く真っ黒で。

 良く見ると黒いのは僕の目の方で、ぱちぱちやると灰が落ちて、鮮やかな景色が広がった。

 ああ、こっちはまだ物で埋まって無いんだねって、そんな風に思えたから、ちょっと嬉しくて涙を流す。

 涙で灰が全部流れて、気付いたら僕は色んな色に包まれて、何かも知らずに立っていた。

 がしゃんごおんと音がして、灰をすくって運んでいく。

 僕も混じろうと思ったけど、スコップが邪魔で乗れなかった。

 仕方なく歩いていくけど、もう戻れないと思うと寂しい。

 でも本当はこっちが居るべき場所なんだって、灰が最後に教えてくれた。

 だから心配しなくて良いって、そう言ってくれたんだ。

 僕はそれを信じられるから、きっといつかどこかで会えると思う。

 だって、物はここにもいっぱいあったから。

 きっとここもすぐに物で埋まって、下と同じく真っ黒になって、そうして大きく燃やされて、灰になっ

てお休みなんだ。

 それまですぐだって解るから、僕は何にも寂しくない。

 スコップが眩しいくらいに光ってる。

 多分もうすぐ燃えるんだ。




EXIT