想いは常に胸奥から


 肌寒くなり、コートが必要になる頃。

 でもそれだけ空気も澄んでいて、だからこんな日に生まれたのかもしれない。雪も降れば神秘さは一

層増すし、聖夜に相応しい日なのかも知れない。色んな意味で。

 吐く息は白く、普段見えない吐息を見るのが少し趣き深い、そんな日だから。

「ごめん、待った」

「おいおい、今日くらいは遅刻しないでちゃんと来いよな」

「ほんとにごめん」

「まあ、いいさ。一応聖なる日ですしね」

「うーん、まだ何か刺があるけど・・・」

 待ち人がまだ来ない人も周りにまだ結構居るから、俺もこれでも幸せな方なのかも知れないなあ。な

んだか少し仲間意識もあったので、待ち続ける人達に心の中でお疲れ様と言っておく。汝の隣人を愛せ、

だっけ。まあ、そんな気分にもなる日だよな。

「あっ、待ってよ〜」

 慌てて追いついて来る彼女を後目に、スタスタと歩き出す。ちょっと意地悪かな、とも思ったけど。

「まだ、怒っているの〜」

「うんにゃ、ぜんぜん」

 さぞとぼけた顔をしていた事だろう。

「うわ、なにその顔〜」

 彼女がひどく悔しそうだ。ふふ、してやったり。

「あっ、雪〜」

 しとしとと白いモノが落ちてくる。ゆっくりゆっくりと少しだけ。

「へー、縁起モノだなあ。雪って濡れ難いから良いし」

「そうよね〜。サンタさんも一緒に降ってくるのかなあ」

「どうかなあ、でも雪の一つ一つにサンタさんが隠れてたりしたら、ある意味怖いな」

「うわ、浪漫の欠片もない言葉〜」

 顔に付いた雪をぺろりと舐める。うーん、味気ない。聖夜くらいサービスして、色んな味が付いてい

れば更にハッピーなモノを、くうう。

「何変な顔してるの〜」

「うーん、まあ大事な人にプレゼントする心がサンタさんってな。と言う事でこれ」

「あー、ありがと〜。やったやった〜って何これ??」

「うむ、よくぞ聞いてくれた。指輪引換券だ、しかも手作り!」

「む〜」

「つまりは金が足らなかったんだよ。バレンタインのお返しにするから勘弁してくれい。変わりに安い

けど、今日はこのピアスな」

「金足らないって格好わる〜。でも、このピアスも嬉しいかな、安いけど。ふふふ」

「うるせい。だいたい女は求める見返りが高過ぎるんだよ。バレンタインだって、安いチョコでアクセ

サリ買わせようとするし。それは明らかに暴利だぞー」

「まあまあ、女の子の特権と言う事で」

「男女平等なはずなのに・・・」

 等と哀しくもある今日この頃。このままでは、と言うよりすでに一般では女尊男卑が浸透しているよ

うな。は〜あ、神様ヘルプミー。

「でも、サンタさんっていないのかな」

「うーん、どうだろうな。でも、サンタさんも全世界の子供達にプレゼント何て無理だろうしなあ。だ

からやっぱりプレゼントする心がサンタさんなんだろうさ」

「そうだよね、やっぱり〜。ん??」

「ん??」

 彼女の呆けている方に視線を向ける。

「おおっ!」

 そこにはずんぐり小太りなイメージ通りのサンタさんが、わしゃあ務めを果たしたぞい、って感じの

爽やかな笑顔で額の汗を拭いている姿が。

「サ、サンタっ!!」

 思わず彼女と二人で叫んでしまった。そしてこっちを向いたサンタさんと目がばっちり合ってしまう。

「はうっ!」

 そう声を発して逃げるサンタさん。そして何故かそれを追ってしまう俺達。

「ひいひいひい」

 でぶったサンタさんは足が鈍い。

「てやっ」

 タックル一番、あっさり捕まえてしまった。

「あっ、サンタさん捕獲〜」

 彼女ものんきな口調だけども、もしかして大変な事をしたのでは。サンタさん捕獲なんて・・。

「ああっ、このわしが捕まってしまうとは・・・。これも煙突が無くなって運動量が減って、太ってし

まったせいじゃああ〜」

「すみません。つい捕まえてしまいまして。だって逃げるから」

「む、そう言えばわしは何で逃げたんじゃ」

 思わずずっこける俺達。何となく逃げて何となく捕まえてしまったらしい。

「いやあ、すまんすまん。ついつい逃げてしもうて。わしは普通は隠密行動じゃからの、しかし会った

しもうたからにはプレゼントをせねばなるまい」

「やった〜」

 無邪気に喜ぶ彼女。

「うむうむ、仕方なかろう。サンタに会うのは一生に一度じゃからの。おぬし等は予定違いじゃが」

「えっ、一度だけなのですか?」

「当たり前じゃい。毎年全員何て言ったら、わしも過労死してしまうわい!まあ、それはそれとして、

んーてきやはおっ!!」

 いきなりサンタさんは意味不明な踊りを始めた。

「ねえねえ、なにあれ〜」

「さあ、ともかく目を合わすな。他人のフリ他人のフリ」

「くおらああああ、善良なサンタになるたる侮辱を!まったく近頃の若もんはありがたみを知らんの」

 と言いつつ、サンタさんの踊りはクライマックスに入り。最後に大きく一度回転し。

「幸せにな〜あれ♪」

 と大変胡散臭いポーズを決めると、ヒゲの先からふあふわしたものが出てきて俺達の身体にぴたりと

くっつきました。

「ふーっ、年寄りには堪える仕事じゃの」

「えっと・・・これは一体??」

「プレゼントは〜」

 腰をぽきぽき鳴らしながら、腰痛体操をするサンタさんと。それを見ながら同時に疑問を発する俺達。

「だから幸せをプレゼントしたのじゃ。モノを与えるのは人間のサンタ、幸せと夢を与えるのが本物の

サンタじゃ。人間誰でも一度だけ大きい幸運が与えられるのじゃ。まあ、普通はこっそりやるからサン

タを実際に見る者は少ないがの。きちんと一度は会いに行っているのじゃ」

「へ〜」

「なるほど」

「うむ、解ったらわしもさっさと行くぞい。サンタも暇では無いのじゃ。そうそう、幸運はいつのまに

か在って気付かないものだからの。気にしないで生きるのが吉じゃぞい。ではの〜」

 そう言い残すとサンタさんは物凄い勢いでロケットのようにいきなり飛んで行った、遥かへと。

「サンタさんって飛べるんだ〜」

「しかも徒歩だしなあ・・。色々期待してたのになあ」

「夢を与えるはずなのにね〜」

「まあ、面白かったし。幸運も貰ったしな」

「でも気付かないのよね〜」

「そうだなあ、何だかなあ・・・」

 ほけ〜っと空を並んで見上げる俺達。じゃあ、あの袋は何だろう・・・。もしやサンタさんのおやつ

が入っているのでは!

「くそう」

「どうしたの〜」

「いや、食いそびれた」

「???」

「ああ、別に何でも無いよ。まあ、幸せ何て人からはいそうですかってもらえるもんでも無いし。もう

ここにあるからな〜」

「うわっ、くさい台詞〜」

「うるせいやい。サンタさん遭遇後しか言えないから一生に一度だし、良いじゃないかよう」

「くさくさ〜」

「あっ、この女め」

 そんな風にじゃれ合いながら、ゆっくり手を繋いで帰って行く一組の男女。

 そしてサンタさんは実はそれを、キシシシバカップルめと、笑いながらこっそりと覗いていましたとさ。

 そんなお話。   


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