シャボン


 届けたい気持ちを乗せて、僕は今日もシャボン玉を吹かす。

 ゆったりと舞い上がり、パチリと弾けて。

 それでも何度も何度も飛ばし続ける。

 届けたい場所はずっと遠くて、何度吹いても届かない。

 何百回、何千回と飛ばしていても、すぐにパチンと消えてしまう。

 そんな気持ち。

 弱気なのかもしれない。

 たまにそう思う。

 届かなくて良かったとさえ思う事も。

 それが本心なのかどうか、自分でも解らない。

 だからシャボンに乗せているのかもしれない。

 必ず壊れるシャボン玉に。

 でももしそのシャボン玉が届いたなら、それはきっと叶う気持ち。

 奇跡さえ叶う気持ち。

 そう思って吹かしている。

 時に強く、時に弱く。

 時に多く、時に少なく。

 強い風が吹けば終わり。

 雨が降れば終わり。

 何かに当たれば終わり。

 それにいつまでも浮いていられる訳じゃない。

 必ず落ちていく。

 いつもゆっくりと落ちている。

 僕の気持ちみたいに。

 でもゆったりとした、心地よい風に乗ってくれれば。

 いつまでも、どこまでも飛んで行ける。そんな気がする。

 気のせいかもしれないけれど、そうならないなんて誰にも言えないなら。

 信じる事で、届くかもしれない。

 でも僕はそれを信じているのか。。

 やっぱり、どこかで望んでいないのかもしれない。

 答えを聞くのはいつも怖いものだから。

 それまではいつまでも夢を見ていられるから。

 そのままで居るのが嫌だから、この気持ちを届けたいはずなのに。

 怖くなると何も変わらない方が良いと思ってしまう。

 どっちが本当の心。

 どっちも本当。そう思うのがあっているのかもしれない。

 どちらと選べない気持ちなら、どちらも本当だって、そう思える。

 もやもやしたままで。

 ああ、空が曇ってきた。心なしか寒い。でも吹き続けよう。まだ、大丈夫だから。

 こんな時はゆっくり、いつにも増してゆっくり吹く。

 大きく軽く、そっと撫でるようにシャボン玉を飛ばす。

 そうするとほんの少しだけ長く飛ばせられる気がした。

 その内雨が降るんだろう。

 風も強くなる。

 でもそれまではとても静かだ。

 こうして冷え込んでいく間は風も雨も無い。

 その時までは、何も起こらない。

 だからこの時間が一番可能性がある。

 本当かどうかは解らない。

 でも、そう信じている。

 これは弾けさせたいから飛ばしているんじゃない。

 届けたいから飛ばしているんだ。

 この世の果てまで、目に映せない、手の届かない遠い場所でもきっと、きっと届くって。

 そう思っている証だって。

 でも本当はそうじゃないのかもしれない。

 そう言われたら、自身が無くなる。

 本当は意地になっているだけなのかもしれない。

 届いても、届かなくても、どちらでもいいのかも。

 本当に届いたら、びっくりして取り消してしまうかもしれない。

 そんな事を考えると、不安になる。

 答えが出る時と同じ、不安に。

 どうしてだろう。僕は自分の想いすら解らない。

 雨が降り始めた。

 終わりだ。何も届かない。こんな雨の中では。

 吹いた瞬間に押しつぶされて消えていくシャボン玉。

 こんな風にして、僕の想いもどこか知らない所へ行くのかな。

 雨にぬれながら、そんな事を考える。

 冷え切った身体が、心まで凍らせるようだ。

 でも雨はいつも長く続かない。

 そして雨の後には太陽がより強く輝いて、僕を照らす。

 光を全身に浴びて、生まれ変わる。

 初めて生まれ出てきた時のように、まぶしくまぶしい光の中で。

 もう一度シャボン玉を吹く。

 何度でも、何十、何百とでも。

 何を考えて、どう想って、そしてどうなったとしても。

 届けたい。

 この想いを届けたい。

 誰でもない、自分の想いを、自分だけが届けたい人に向かって。

 答え何て望んでいないとしても。

 怖いだけだとしても。

 決して届かなかったとしても。

 それは伝えない理由にはならないと思うから。

 届けたい。

 僕の想いは一つ。

 届けたい、それだけ。

 シャボン玉に乗せて。

 この世界で一番もろく、美しいものに乗せて。

 それがきっと心の形なんだって、僕は思うから。

 ずっと飛ばし続ける。

 いつか、届くように。

 そしてもう一度。

 もう一度、生まれ変わろう。

 本当の気持ちを伝えられた、素直な自分に。

 このシャボン玉になって。

 いつまでもどこまでも飛び続けよう。




EXIT