空の穴


 空を見て居ると、いつも思う事がある。

 何か降って来ないだろうかと。何でも良い、隕石でもかぐや姫でも月のうさぎでも、何でも良いからと

にかく何か降って来たら面白いのに、と。

 降って来る物と言えば、雨粒ばかり。空が海を吸い上げて雲になり、お腹一杯たらふく食べた後は、も

う満腹だと余り物を地上に投げ捨てる。つまりはそれが雨なのだけれど、なんともつまらない。

 欲を言うなら、飴玉やらトマトやらリンゴやらドーナツやら、色んな物が落ちてきてくれないだろうか。

そうすれば、きっと凄く嬉しくなると思う。

 後始末に困るかも知れないけど、やっぱり嬉しいはずだ。

 何しろ空から落ち来るんだから。落ちてくるんだよ、空から。こんな愉快な事は他には無いと思う。

 外で寝そべり、大口で高いびきしていると。気が付いたら口の中が飴だらけだったとか、とても面白い

と思う。いや、かなり面白い。これは面白い。是非お勧めしたい。

 けれども、やはり降るのは雨ばかり。

 たまに鳥のフンが降ったり、火山の近くでは灰が降ったりするけれども、それでは何にも面白くない。

 飛行機から何か落したり、気球から重りが落とされたりする事もあるけれども、それはちょっと遠慮し

たい。

 そんな物では無く、もっと面白そうな物が。

 降って来ないだろうか。何か降って来ないだろうか。

 毎日毎日空を見て居るけれど、寝て居る時も屋根越しに空を透かして見たりしてるけれども、やっぱり

降って来ない。誰か降らしてくれないだろうか。こうなったら自分で降らそうか。

 しかし金も無ければ頭も悪いでは、どうにもこうにも出来る訳が無い。せいぜい屋根の上から夕飯の残

りでも降り撒くので精一杯。

 それに例えお菓子や果物を降らせても、人力ではゴミをするなと怒られる。危ないから止めろ、とも怒

られる。

 ああそうだ。硬い物では危ない。ここはマシュマロかグミにしよう。

 と言う事で、ここはやはり空から降って欲しい。

 いや、降らせるべきである。

 是非是非国家事業でやっていただけないだろうか。無駄と言われるかも知れないが、色々無駄にはなら

ないと思う。多分そう思う。確信は無いけれど。

 ここは一つどうだろう。何か色々詰め込んだ人工衛星を飛ばし、徐々に分解していくようにして、何時

かは解らないけど、いずれ分解しきって中の物が飛び出すようにすれば。

 そうすれば、何とか空から降ってきたように思えるかも知れない。

 ああ、でも駄目だ。やっぱり駄目だ。

 こっそりやっても、きっとあばかれ、ニュースか何かですぐに伝達されてしまう。所詮は人災だったと、

そんな風に言われてしまったら、それは楽しくない。

 いきなり降ってきて吃驚しつつも少し楽しんでくれてた人達も、解っててもそうやって断言されると、

きっとがっかりする。

 がっかりは、悲しい。

 夢は儚いとか。所詮現実はとか。そう言う風に思うのは楽しく無い。

 何とか空から降って来て欲しいと思う。降ってくれ、何か降ってくれ。上手く言えないけれど、それは

とても愉快じゃないか。

 ああ、降ってくれないだろうか。

 そんな風に思いながら、仕方無いので毎日外で寝そべり、自分で買った飴玉を空に投げ、落ちてくる飴

を口で受けている。今では百発百中である。ここは褒めて欲しい。

 雨と飴を皮肉にかけて、ずっとそうしているけれども、やっぱり降ってくれないのだろうか。

 こうしてずっとやっていれば、もしかして自然界の何某かとか、何とか異常気象が誘発されて、変った

物が降って来ないだろうかと、こんなに願っているのに。

 いや、でももしかしたら明日こそ、何だか解らない超常現象やら宇宙人襲来でどうのこうのとかで大気

の成分が変り、それによって色んな物が降ってきたりとかしないだろうか。

 ありえない。確かにそうかも知れない。けれど、明日の事は明日でないと解らない。

 そう思って今日も飴を一人で空に投げる。

 誰か代々受け継いでくれないだろうか、そんな事を考えながら投げている。何億年かくらい伝承されて

いったら、何とかなるんじゃないかとか、そんな事も合わせて考えながら。

 そうそう。素人さんが真似する場合は、飴を歯に当てないようくれぐれも御注意を。

 一般的にはやはり柔らかい物を使った方が良いと思いますよ。

 そんなお話。




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