片手を開き、振り下ろす。 空間に五筋の線が生まれ、ゆっくりと近づきながら一つになる。 線は合わさって面となり。今度は両端からゆるく曲がりながら、筒になっていく。 これが私の世界だ。 筒の世界。上下には延々と繋がり。しかし左右にはしっかりと区切りがある。 そこを裂け目と呼ぶのか、単純に境界と呼ぶのかは、見た者に任せよう。 表面にたっぷりと泥を塗る。 この筒が泥で出来ているのかと思わせるくらい、たっぷりと塗った。 それから両手でがっしり握り、そのままゆっくりと力を加える。 泥は固まり、程好く乾いて、大地となった。 植物を植えていく。 あるだけの物を持って来たから、種類は豊富だ。 面倒になったので、全部まとめたまま、両手で握り付けるようにして植えた。 暫く待つ。 太陽はすでにある。たくさんの星が生まれている。 今も私の隣で、似たような事をしている者もいる。 太陽の光を浴びて植物が育ち、勝手に自然淘汰され、大地の所有者達を定めた。 随分すっきりした。 まるで散髪でもしたように、綺麗なものである。 しかし少し強引過ぎたかもしれない。 その証拠に、所々空き地が出来、いずれは砂漠になるだろうと思えた。 まあ、どうでもいい事だろう。 砂漠には砂漠の何かが生まれるはずだ。 私が全てを生む為に創るのではない。 この世界が終わりを迎えるまでの、過程を見たいから創るのだ。 細かい事まで面倒みていられない。 勝手にすればいい。それが私の望みなのだ。 丁寧に創る者もいるが、私は違う。 それだけの事。 次は動物か。 さてこれが問題。 まあいい、これも偶然に任せよう。 そこへぐっと手を入れ、一掴みする。 それを持ち、世界へ投げ付けた。 これでそれぞれに動物が誕生するはずだ。 もしくはもう育っている種も混じっていたかもしれない。 ああ、またこいつだ。 一種族がどんどん生息域を広げていく。 こいつらはとにかく成長が早い。 その分すぐ死ぬが、どんどん湧くから厄介だ。 まあいい、いずれ自滅するはずだ。 自分で自分を救う力が無いと思い込み、全てを巻き込んで自滅する。 成長も早いが、自滅の時間まではもっと早い。 こいつらはそういう種なのだ。 良いだろう、好きにしろ。 大地を滅ぼしても、世界は滅びない。 新たな大地を創り、新たな種を蒔けば良い。 それだけの事だ。 おお、これは珍しい。 育った種が、三種も生まれた。 こいつらも成長が早いようだ。 一種だけ少し遅いが、その分望みも持てそうだ。 私はゆっくりしたいのだから、こいつらだけ助けてやろう。 四種が生存権を賭けて戦う。 これもまた同じ光景。 やはりこうなるのか。 まあいい、それもまた興味深い。 散々暴れた挙句、四種が絶滅した。 共倒れしたのか、自滅したのかは解らない。 面倒になって、途中から見放していたのだ。 まあいい、これもそいつらが望んだ道なのだから、喜んで滅亡したのだろう。 一種だけ残す事ができた。 こいつらには望みがあるだろうか。 解らないが、一つ助けてやるとしよう。 本当はどうでも良いのは除けて、選別したい所だが。 しかしそんな事をすれば、選ばれた何だのと調子に乗る。 そんなものにたいした意味はないのに、面倒な事をこいつらは考える。 やる気が失せた、このままにしておこう。 代わりに世界へ祝福を。 潤いと生命を蒔き、世界を甦らせる。 随分減っていたが、これでまた増えるはずだ。 面白い。 私は何もしていないのに、こいつらは何処からきて、何時まで増えるのだろう。 観察していれば、それが解るだろうか。 まあいい、それは目的ではない。 順調に増えていく。 ああ、駄目だ。 対抗種が滅びたせいだろうか。 傲慢になり、前の種と同じく、自滅への道を進み出している。 あれだけ惨めな思いで、惨めに生きていた事も、今は何の戒めにもならない。 記憶は繋がらない。役に立たない。生かす意味が無い。 つまらない事だ。 私は世界を二つに裂き、二つの筒へと変えた。 その裂け目に両手を入れ、そのまま左右に押し投げる。 もういい、後は勝手にしろ。 二つあれば、一つは上手くいくかもしれない。 しかしそれももう、どうでもいい事だ。 好きにやればいい。 その代り、最早助けは無いと思え。 一度拾った命を、大切にするがいい。 だが自滅を望むのなら、自滅すればいい。 もう、済んだ事だ。 さて、また同じ事をやらねばならん。 いつになれば終わるのか。 もううんざりだ。希望など捨ててしまえ。
了 |