大雪な花


 その花は一心に、天上から落ちてくる白い灰のようなものを受けている。

 雪と言われるその灰は、人の後悔、夢の残骸そのものだ。

 天上に降り積もった全ての届かなかった想いが掃き集められ、余りにも多く、地上に落しきれなかった分が

この花の上に落とされる。

 ひらひらと舞う雪もあれば、真っ直ぐに降り注ぐ雪もある。形状、重さも様々だ。

 花は拒否しない。その為に生み出され、その為だけに生かされ、そうする事で生きている。

 雪は花にとって命の糧なのだ。

 そんなあわれな花が、惚れ惚れする程美しい。

 最も残酷で美しい色に染まり、滅び逝くが故の美を全て備えている。

 つまりこれこそが人が忌み嫌い、恋焦がれている、不幸そのものなのだろう。

 現実と言い換えてもいい。

 決して見たくなかったそれを見た時に思う全ての心が、花には美として詰まっている。

 そのせいか成長も退化もしない。いつまでもそのまま、夢のまま在り続ける。

 あたかも人は失敗を得ても変わらない。ただ、もう一度失敗を生むだけだ、とでも言うかのように。

 そんなものが何よりも美しいのだから皮肉である。

 何も生まない、残酷なあわれさが、何よりも美しいのか。

 知らぬ涙を拭えば、そこに何かが見えてくるのだろうか。

 雪の中に浮かぶ、人々の愚かな思念が、何を教えてくれるのか。

 いや、そんな事はありはしない。全ては空っぽの残骸。だからこそ美しい。

 そう思えばこの花も、不幸ばかりではないのだろうか。

 我々が幸せを求めるように、この花は不幸である事で生きている。

 そこに悲しさは要らない。必要があるだけだ。生きる為に。

 なら、一体何が我々と違うというのだろう。感じ取る印象などには何の意味も無い。

 無数の雪の中に咲く花。

 それが美しいという事さえ解れば、充分なのかもしれない。

 我々もまた、そうである為に。




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