築いてきたものがこの掌を滑り落ちる時、自分が何一つ成せていなかった事に気付く。 おそろしくつるつるで凹凸のない掌。すべすべで綺麗に見えるのかもしれない。しかしそれは何も持つ事 のできない、弱い手だ。 どんなに力を入れても、何も受け取れない。つるつると滑り落ちていく。 その上にある間はいい。重力に導かれるまま、その上に居てくれる。 だが一度傾けば、全てが滑り落ちていく。まるで初めから何も無かったかのように。 その時に見る掌は、冷酷なまでに美しく嘲笑う。 何一つ負担をかけず、真綿に包むようにして共に生きてきたそれは、一片の力も貸してくれない。 今まで大事に大事に使わないようにしてきたのに、このたった一度の時に何も力を与えてくれない。 楽しく苦しむ事をしないでずっと一緒に生きてきたのに、何故今になって歯向かうのか。何故この掌は力 を貸してくれない。大事に大事にしてきたのに。こんな時の為に大事にしてきたのに。 裏切り者の掌は静かに笑う。 いつも誰かが預かっていてくれた当たり前の重みすら、今まで一度も持った事の無い疲れ知らずのこの両 手が、何一つ持ち上げられない。 泣いても嘆いても全ては零れ落ちていく。 この掌は自分の涙すら、受け止められない。 それが私の掌が出した、答え。 私の答えなのだろう。 |