転じ、己が命題果たすべし


「君は何度目かな。もう一回だね」

 私は何度目かのその台詞と共に追い返された。

「うーん、何度やっても駄目なモノは駄目だからねえ」

 これはこの世で幼馴染だった人の台詞。

「何だっけ、自分で誇らしく死ねる人生を、だっけ。今回の命題は難しいねえ」

「そうそう、試験神が変わってから急に難しくなったよ。いやだねえ、生真面目神様は」

 仲間内での傾向と対策は未だ出てなかったりもする。

「今なら、政治関係かなあ・・・。親が政治家ってだけで、子供が苛められてしかりな時代だからねえ。

これを立て直せば絶対受かるだろうさ」

「でもなあ、それには後ろ盾が必要だから。余程良い生まれで無いと、前回の成績だと所謂中流階級が

関の山だしなあ。一発逆転は難しいぞ。ギャンブルは身を滅ぼすように仕組まれているからなあ」

 予想問題集や一番良い例なんかも、前回の成績が無ければ出来ない事ばかりだし。

「そうだよなあ。まったく、哀しくなるねえ。出来の悪い奴は永遠に救われないなんて、神様のやる事

かい」

「まあまあ、そんな事言ったってこれくらい出来なければ次の次元では尚更苦労するからねえ。ほら、

あれ。前の試験でここでの記憶を持って行ってカンニングした奴いたろ。それで合格したのは良いけど、

今回の試験で最悪な成績取って、おまけにカンニングもバレて最下層に落とされたって。今を誤魔化し

て行くと後でもっと苦労するだけだって」

 あれは、最悪だから。一気に地獄行きだもんな。またここまで来るのに果たしてどれだけの生き地獄

を味わうのだろう。

「そうそう、地獄からの転生は最悪だっていうぜ。生活環境最悪で、確かストレスで傷害事件起こして

警察にご厄介になったとか。ありゃあ、次の転生は罰則付きだぜ。くわばらくわばら」

「かーっ、嫌だ嫌だ。そんな人生送りたくないねえ。それって泥沼で、無限地獄じゃないか。救いよう

が無いよ」

 でもいつまでもここに居る訳にはいかないし。早く上の次元に行かないと、いつまでも救われない。

永遠に転生を繰り返すなんて嫌だし。

「確かになあ。結構人間って嫌だからなあ・・・。まったく何であんなに面倒なんだろう人間って奴は。

せめて記憶を持っていければ同じ失敗しなくて済むのにな」

「まあ、記憶を持っていけるのは成績の上位数人だっけ。誰でも少しくらいは持って生まれ変われるそ

うだけど。見た景色とか、そんな役にも立たないものだけだって言ってたなあ」

 でも試練試練って、何で死んでからまでこんな苦労しなくてはならないのかな。生きてる時は死ねば

楽になるとか、死ねばそれまでとか思ってたけど。前世での行いが今世に響くなんて。

「それだよそれ、やってられないな。まったく・・・・お、そろそろ順番来たぜ。じゃあ行こうか。え

ーと今だとだいたい80年後くらいか。じゃあ、またその頃死んだ時によろしく」

「ああ、今回は受かると良いけどな。もう面倒になってきたよ」

 じゃあ、私も行こう。そして白い雲に包まれた。

 そして目を開けると母の顔があるのだろうな。いや、看護婦さんかな。

 今回は受かりたいなあ。そう言えば、キリストだか何だかになってた人が言ってたっけ。


 誰かに何かを与える為に生まれているのだとしたら。

 自分のすべてを搾り取られてしまうのかも知れないけれど。

 それはきっと偉大だから。

 自分はとても満足して、笑顔で逝くでしょう。


 って。哀しい事じゃないから、だから多分辛くないのかな。解らないけれど、自己犠牲でも無く他者

を犠牲にするでも無い生き方って無理だろうな・・。

 ああ、そうか。別に何をやったとか、してあげたとかしてもらったじゃなくて。それでどう思ったか

思われたかが問題なんだな。

 ああ・・・・でも生まれた時には忘れてるじゃないか。

 はあ・・また駄目かあ・・・。

 そしてまた一人の人間が誕生する。

 そんなお話。  




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