「そこ、何をしている!? ちゃんとそろえんか! ウズの向き、角度、速さ、全てを同じにして一つにならなけ ればならん。それができんと卒業もできんぞ」
「えー、でも今そんなの流行らないっすよ、先生。今は自分のポリシーっつうか、個性の時代ですからね」
「ポリシーでウズは回らん! 四の五の言わずにちゃんとしろ! ほら、お前もちゃんとしろ。なんだ、その角度は!」
「この右斜め四十五度が僕そのものなんですよ、先生。これ以外に僕のウズはありません」
「お前がどうしたいかなんて問題ではない! ウズをきっちり合わさなければ、他の全てのウズに巻き込まれてし まう。とても危険なんだ。遊びでウズを回してるんじゃない! お前もちゃんと右に回しなさい!」
「でも、先生。そうは言っても俺だって右回りなんてごめんですよ。ウズは常に左回りだってうちのオヤジも言っ てますしね。俺だってそうだ。右回り右回り言ってるけど、先生も俺達の年代の頃はきっちり左回ってたんでしょ? 知ってんですよ、俺は。オヤジが先生も昔はここらで有名な左回りだったって、言ってたんですから」
「・・・・・・そうだな、確かに私も昔は左回りだった。それどころか、私がお前達の年代の頃は皆そうだったん だ。お前の親父さんの言う通りだよ。意味も無く周りの環境に腹を立てて、でもその気持ちをどうして良いか解ら なくて、どうしようもなくて突っ張るしかなかったんだ。でもな、本当は心のどこかで右回りになることを望んで た。お前の親父さんだってきっとそうだ。口ではそう言ってても心のどこかではお前がちゃんと右に回る事を望ん でいる。・・・・・本当はお前だって、そうじゃないのか?」
「・・・先生、俺が悪かったよ。俺だって本当は解ってんだ。いつまでも左回っててもしかたないって、その内一 ウズぼっちになっちまうって。でも、今更どうしたら良い? 俺、右なんて回した事ないんだよ、先生。俺、どう したら良いんだよ」
「放課後、残れ。私がきっちり右回しを教えてやる」
「えー、先生それってひいきじゃーん。あたしだって先生とマンツーマンしたいしー。なんならあたしとウズ合わ せしたっていいんだよ、先生」
「ばかもん! 学生の身でなんたる破廉恥な事を! お前はもう少し真面目にやれ! 他のウズでもない、お前自 身の事なんだぞ!」
「でも、先生。先生だけなんだよ、そう言ってくれるの・・・。あたし、本気だよ。先生とならウズ合わせたって 良いんだ! 親もあたしの事なんか気にしてないし、気にするのは世間体だけだし。相手してくれるウズだって、 結局あたしとウズ合わせるのだけが目的だし。もうどうしていいかわかんないんだよ・・・・」
「それは違うんじゃないか」
「えっ、どういうこと。まさか先生まであたしが・・・」
「ばかもん!」
「えっ!?」
「そういう事を言ってるんじゃない。確かにお前の周りのウズ達はお前の事をちゃんとは見てくれないのかもしれ ない。お前の事を利用し、自分のウズを発散させる為だけに近付いてきているのかもしれない。けどな、最初から そうだったか? そんなウズらしか近付けないようにしたのはお前自身じゃないのか? 差し伸べられた手を信じ られず、信じて裏切られるのがこわくて、知らず知らず打算と計算の関係に逃げてしまったのではないか? 信じ られないウズしか寄ってこないのではなくて、お前が信じられるウズを遠ざけていたんじゃないだろうか。損得 勘定だけでウズ関係をはかる方が楽だから、そっちに逃げてしまっていたんじゃないのか」
「そ、そんな事言われたって・・・」
「勘違いするなよ。別に良いんだよ、それでもな。私だって正面からウズと向き合うのはこわい。もしちょっとで もウズにずれがあったらと思うと、とてもこわい。でもな、結局自分なんだよ。自分からどうにかしなければ、誰 も、何もどうにもならないんだ。自分の周りなんて、本当は自分だけの問題なんだよ。環境は確かに強い影響力が ある。でもな、ウズ関係はウズだけの問題なんだ。どうにだってできる、できたんだよ。お前は少しだけそれが苦 手だっただけなんだ」
「でも、先生・・・」
「意地を張らず、素直にウズを回せばいい。別に他ウズと合わせるのは悪い事じゃない。同じにするから自分を失 うとか、そういう事ではないんだ。何をしても、何を選んでも、どういう状況でだって、自分というウズはいつも そこに回っている。角度や速さや向きなんてどうでもいいんだ。そこにウズはあるんだよ。お前というウズはいつ もそこにあるんだよ」
「・・・・・・・・先生、あたしが間違ってた。ウズに合わせたって、それで自分が消える訳じゃないよね。他ウ ズと違う事があたしじゃないんだよね。心まで一緒にしろなんて先生は言わなかった。ただウズを合わせる、それ だけの仕事だけの関係。そういう割り切りだって必要なんだ」
「ああ、これはただの訓練なんだからな。別に一生そうして回ってろって言っているんじゃない。お前の意志は そこにあっていい。でも安全の為、社会との付き合いとしての回し方を学ばなければならんのだ。その為にお前達 はここにいる。そしてそれを教える為に私がいる」
「えー、でもー。先生、そんなくっさい事言ってるけどぉ、先生だって他校のウズと合わせてたりするんでしょ? わたし聞いたよ。その学校の知り合いから、ちゃんと聞いたよ!」
「・・・・・・・そうか。もう噂は広まってしまっていたか。確かに私もただのウズだ。情念に身を任せてしまう 事もある。ウズだから合わせずにはいられない部分もある。お前達に何かを教えられるような立派なウズではない のかもしれん。でもな、これだけは信じてくれ。私がどういうウズであっても、今教えている事はお前達が社会に 出た時、きっと役に立つ。別に私を敬う必要はないんだ。でもな、私の教えている事はちゃんと聞いてくれ。そう しなければお前達が怪我をしてしまう。知ってるだろ? 毎年帰らぬウズが出ている事を。私はもうそんなウズを 出したくはないんだ。頼む、回してくれ」
「な、なによ、そんなマジにウズ回しちゃって・・・。いいわよ、解ってるわよ。わたしだって自分がわがまま言 ってるだけだって事くらい解ってるよ。でも何だかずっと言われるがままやってるとイライラしてくんの。自分の ウズが止まっちゃうような気がする。何も考えられなくなる」
「気持ちは解る。私だって一緒だ。社会のウズ車として働いていると、ほんとに自分がただの部品で、意志も主張 もない道具になったような気がしてくるものだ。でもな、さっきも言ったけど、そうじゃないんだ。そう思い込ん でいるのは自分なんだよ。仕事だけがウズ生じゃないんだ。やりがいやウズがいだってあるし。お前はお前の回し 方をしてても良いんだ。ただ、今だけは我慢してくれ。そうしないと本当に危険なんだよ」
「わ、わかったわよ・・・・」
「皆も解っただろ。ポリシ-とか個性とか生き方とかそういうもの全てを同じにしろって言ってるんじゃないんだ。 ウズとして生きていくにはどうしても他ウズに合わせないといけない時もある。我慢しなければならない時もある。 それを解っていて反抗したい気持ちがある事も解るが、ウズ回しだけはきっちり学んでくれ。そうしないと本当に 危険なんだ。私はお前達に私より先に消えて欲しくない。・・・・・解ってくれるか?」
「はーい」
「よし、ならもう1セット、高速右回しから、3,2,1,ハイッ!」
海は今日も平常運転です。
そんなお話。 |