風景


 風が流れていく。

 風景という名の通り、いつも目に映る景色には風が流れている。

 そしてそれを肌で感じ、私はそこに現実を見るのである。

 こうして風を見ていると。

 私自身さえ流されていくように感じる。

 風の先の果てしない事。

 まるで無限に続く色彩があるかのように。

 いつまでも絶え間なく光を帯び。

 全てが輝き、私に放っている。

 光は風に乗り、私もまた風になる。

 私という風景もまた、風に溶けてしまうのだろうか。

 風に溶け込んでいく。

 私もまた景色の中に。

 風景という一つになり。

 ありとあらゆる生命から見られている。

 私もまた一部であるからには。

 特に何かを与えるでもない。

 全体としての一つとなる事で。

 私は生命に感慨を与える事が出来る。

 私という存在だけでは。

 きっとそれは適えられまい。

 風と共にある事で。

 その風の中に漂う景色となる事で。

 私はきっと。

 初めてそうなれるのだ。

 風を追う。

 今度は私が追う立場にある。

 去り行く季節を眺めるように。

 私は過ぎ去りし風景を眺めている。

 それは過去を望むように切なく。

 未来を垣間見るかのように怖い。

 恐れと喜びが同居し。

 私の中で複雑な感情となって甦る。

 私という存在が。

 ここに居て初めて見る事の出来る。

 ただ一つの風景がそこにはあるのだ。

 決してどこにもない。

 唯一つの風景が。

 風が止んだ。

 止まったものはそれ以上何ももたらさない。

 風景という名もまた死に絶え。

 眺め見た全ては。

 何の感慨ももたらさない。

 何かが変わった訳ではない。

 きっと変わったのは私の方だ。

 風は常に止みはしない。

 病んだのは私の方なのだ。

 風は消えてしまった。

 もう感じる事が出来ない。

 まるで初めから無かったかのように。

 私の前から姿を消した。

 私はそれを探そうとするが。

 決してそれに辿り着く事は無いのだろう。

 私の意志も。

 私の願いも。

 今はもう無力なのだから。

 全ては風によって生じ。

 風によって移り変わり。

 風によって失い。

 風によって終える。

 風というものが私を覆う全てであるなら。

 おそらくそういう事なのだろう。

 誰も否定する事は出来ない。

 否定する意味も無い。

 それはきっと。

 そういう事なのだ。

 確かにそういう事なのだ。




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