神は自らの中に居ると言う。

　人には須らく神が住まうべし、なのだそうだ。

　そう言う訳で、私の中にも神が居る。何故かは私自身も知らない。

　その神の名は天邪鬼。あの何でも反対したい神の天邪鬼である。

　実際はどう言う由来があり、どう言う存在であるかは知らないが。天邪鬼、と言う言葉がすでに言葉と

して成り立っている程、有名な神である。

　そう、悪い事に神なのだ。

　神だからその力は人には抗し難い。嫌でもどうにも出来ない。真に始末の悪い奴だ。

　類似神として貧乏神と言うのも居る。

　あの貧乏にして貧乏にして、正に貧乏としか他に言い様も無い、あの貧乏神である。こちらも有名だが、

何故こう言う少しへこむ感じの神の方が有名なのだろうか。

　何にしても、私の中に居るのがこの貧乏神でなかっただけ、まだ幸せなのかも知れない。

　どっちかを選べと言われれば、私は間違い無く天邪鬼を選ぶだろう。

　天邪鬼な感情は、誰しも持っている。今更天邪鬼が心に住まったからと言って、それが何だと言うのだ。

何をやっても抜け出せない貧乏よりは、遥かにましだろう。

　そう思っていた。

　いや、そう思うしか無かったのだ。

　何せすでに居るのだから、今更どうこう足掻いたとしても、何が変わる訳でも無い。

　神を追い出す事などが、人に出来るはずが無い。その術も解らない。

　それに出来たとしても、また別の神が降りてくるだけのような気もする。しかも来なくて良い神が。

　大体立派な神であれば、地上などに降りてくるはずが無い。多かれ少なかれ、問題のある神だからこそ、

人間の中に追い落とされるのだろう。

　そうでなければ、誰が人間の心などに住みたがるだろうか。

　天邪鬼も貧乏神も、おそらくこちらと同じように、嫌々ながらも心に住まっているに違いない。

　人の中には常に神が居る。

　誰も望まないのにそこに居る。

　しかも大抵は複数居るらしい。人には本来心とか思考とか言ったものは無く。ただの泥土と水の塊であ

って、ようするに人形である。それが物を考えたり、何か言ったりするのは、おそらく全てその中の神が

やっているのだろう。

　その全てが全て神と呼んで良いのか解らないが、どうもそんな気がする。

　心とか精神とか、そんな訳の解らない触れもしない物が、自然に生まれる訳があるはずがない。自然と

は完全な合理主義者であり、生き残れないと判断されれば、より強い種が生まれれば自然淘汰されて来た。

　そこに心とか精神とか感情などと言う、一種余計なものが生まれる訳が無いのだ。

　それは多分、人間に何かが入って居るからなのだ。そしてそれが人を動かしている。

　人も犬も虫も、花も木も草も、それは等しいのかも知れない。

　自然と言うのは、ようするに入れ物であって、その中に産まれ生きる人間も例外では無い。

　全てに神が詰まっているのだ。多分。

　つまりは私も神である。しかし天邪鬼である。

　私は神だと言えるなら、こんなに自尊心を満足させる事は無いが。しかし天邪鬼なのだ。

　どうにもこうにも納得と言うか何と言うか。釈然としないものがある。

　天邪鬼、何だろう、神のくせに鬼、しかも邪鬼と入っているのが気に食わないのだろうか。そう考えれ

ば、そうかもしれない。

　まだ天は良い。天なんて素晴らしい字ではないか。正に神であり、極楽浄土に続く道と言う感じである。

　しかしそれも後に続く邪鬼の文字で台無しである。

　いや、鬼もまだ良い。

　話によっては可愛げのある鬼も居るし、人知を超えた存在と言う事で、まだ多少の救いもある。鬼とは

畏怖の象徴でもある。

　だが、邪、これはどう考えても納得が、いや、絶対に受け入れたくない文字である。

　この一文字のせいで、全てが台無しになっている。

　天鬼、これならばまだ神聖な感じを受けない事も無いのだ。しかしこれに邪が入り、天邪鬼となる事で、

いかにも卑小なちっぽけな鬼が居るかのように思える。

　ようするにイメージが悪い。

　これをどうにかして欲しい。

　でもどうにもならない。

　私はいつの頃からか、こんな事を真剣に悩んでいる。

　これは実際に天邪鬼を宿らせてみないと解らないと思う。

　何たら明王とか、仁王とかそう言った神であれば、箔も付くと言うものなのに。事もあろうに天邪鬼。

　貴方は天邪鬼、そう言われるのと同義であって。しかも例え話でも何でも無い、正真正銘の天邪鬼とな

ると、人の身から考えれば救いようが無いように思う。

　だがもうそうなったからには、このまま生きるしか無いのだろう。

　せめて武神に踏み潰され無ければ、不幸中の幸いなのだが。

　ただ、天邪鬼も悪い事ばかりでは無い。

　例えば魔が差す、悪魔の囁きと言うものがこの世の中にはある。つまり己が内からの誘惑なのだが。

　天邪鬼がそれをすると言う事は・・・・、まあそう言う訳で、私は大いに助かっている部分があるのか

も知れない。

　何でも悪い事だけでは無く、同じくらい言い事も隠されているものらしい。おそらくは。

　さて、貴方には何神が宿っているのだろう？

　せめて貧乏神でない事を祈っている。