小さめな人達、その名もコビットさん。 彼らは人間の半分ぐらいの身長で、でも横幅は広く、太い樽のような体型をしています。 でも太っている訳ではなくて。そのほとんどが筋肉ですので、力が強く、脚も速い。かけっこや腕相撲 なら誰にも負けません。 いつも元気で騒がしく、笑うのが何よりも好きで、毎日楽しく過ごしています。 コビットさん達は何処にでも住んでいます。人間と同じくらい何処にでも住めて、どこでも暮しやすい ように作り変えてしまいます。とても器用なのですね。 人間と違うのは、コビットさん達は皆自然を愛し、特に植物が大好きなので、無闇に木を伐り倒したり、 草花を刈り捨てたりはしない事です。 草も花も木もとても大事にして、なるべく枯らさないように気をつけて、彩り鮮やかな風景の中で、ゆ ったりと生活しているのです。。 え、何処にでもいるはずなのに、今までコビットさんと出会った事がない、ですって。確かに変ですね。 でも理由があるのです。コビットさん達は他の種族に比べて、とても数が少ないのです。 世界中の全てのコビットさんを集めても、千人しかいないのです。寿命は人の数十倍、力も強く、車が ドンとぶつかっても平気なくらい頑丈なのに、不思議とコビットさんはそれ以上増えません。 その理由は、コビットさんの言い伝えに、コビット族は常に世界に千人しか居てはならず、多くても少 なくてもいけない、というのがあるからなのです。それをずっと守っているから、コビットさん達は減り も増えもしないのですね。 だから滅多に会えません。何処にでも住めるので、何処に居るかも解り難いのです。 え、今度は千人って決まってるからといって、そんなに上手く数を合わせる事は出来ない、ですって。 確かにそうですね。少なくとも人間にはそんな事は出来ません。 でもコビットさんはそれが出来るのです。 聞いた話に寄ると、コビットさんの誰かが亡くなると、同じ日に誰かが生まれるらしいのです。それ以 外は生まれないので、決して数が変わらないのです。 我々からするとおかしな話ですけど、コビットさんはそうらしいです。 そもそもコビットさんはコビットさんから生まれるのではなくて、何処からかひょっこり現れるそうな のです。 コビットさんが何処から生まれるのか、何処から来るのか、誰も知りません。コビットさん自身も知ら ないようです。 いつも何処からかひょっこり現れて、いつの間にか住み着いているのがコビットさんなのですね。 一応結婚もしたり、家族もありますが、子供は生まれないので、人で云う親子とかいう関係はありませ ん。でもコビットさんは全員が兄弟で家族だと考えているので、まったく寂しくはありません。 むしろいつも千人の家族と友達が居るのですから、人間なんかよりはよっぽど楽しそうです。
コビットさんにはコビット神様という神様がおられ、いつも見守っていると云われています。 コビットを生むのもこの神様だと信じられ、ぴったり千という数を数えているのも、この神様らしいで す。もしかしたら、この神様が見守れるのがちょうど千人で、それでコビットさんは千人と決められたの かもしれません。 人間なんて一人二人見守るのにも苦労して、失敗の方が多いくらいなのですから、流石は神様です。 でもどうやって千人も同時に、いつも見守っておられるのでしょうね。もしかしたら、目を千個も持っ ておられるのでしょうか。 いやいや、神様なのですから、人間を基準にするのは間違っていますね。失敗失敗。 もしコビット神様と話せる機会があったら、ゆっくり聞いてみたいものです。 コビットさんはとても信心深くて、コビット神様を礼拝する事から一日が始まります。 昨日まで見守って下さってありがとうございます。今日も一日御願い致します。と、しっかりお祈りす るそうです。 でも信仰心が篤いからといって、何でもかんでも神様に押し付けたりはしません。 誰かから何かしてもらえば、きちんとその相手に感謝しますし。何か悪い事があっても、自分で反省し たり、その相手を諭そうと試みます。 神様はきちんと見守ってくれている。でも良い事も悪い事も神様のせいではなくて、自分の行いの結果 なのだと考えているのです。 こういう責任感があれば、神様も安心して見守れますよね。 もし何でもかんでも神様のせいにされたら、コビット神様も呆れてしまわれるでしょうから。
コビットさんは礼拝を終えた後洗面して食事を摂り、そして歯を綺麗に磨いた後、もう一度神様に感謝 の心を捧げます。そして一日の幸運を願いながら、朝日をたっぷり浴び。それから大抵外に出かけます。 コビットさんは雨も好きなので、例え台風が来ても平気で外に出ます。身体も頑丈で力強いので、人間 が吹き飛ばされそうな風でも、平気で歩いて行けるのです。 雨に濡れる事も楽しみながら、森に行っては木の実を拾い、山へ行っては岩を掘り出します。 コビットさんの主食は岩石を砕いて、その上に木の実を潰してかけたものです。 歯も丈夫なので、ビスケットでもかじるようにして、コビットさんはガリガリと岩を食べます。とても 美味しそうに食べます。 食べる岩の種類も豊富で、その一つ一つは味や栄養分も違うそうです。でも色んな岩を沢山食べる必要 は無くて、どの岩も栄養豊富なので、好きな物を好きなだけ食べれば良いそうです。 何でも美味しく食べれる事が、一番の幸せです。と、知り合いのコビットさんは言っておられました。 そこには貧しいとか贅沢とかの区別はなくて、ただただ幸せがありました。 美味い不味いだの煩い人間達は不幸だな、とも、コビットさんは気の毒そうに言ってましたよ。
コビットさんは基本的に争いを嫌います。何故って、争った所でお互いに損するだけだからです。 それにあれが違うこれが違うなんて言っても、結局どちらも自分が勝手に考える事なので、一つに決め る事に意味があるとは思えないそうなのです。 人は人、自分は自分。その上で、お互いに出来る事を協力しあえば良いじゃないか、とコビットさんは 考えているのです。 勿論、道徳心からの気持ちもあります。コビット同士で争うなんて、なんて悲しい事だろうと、コビッ トさん達は思うのです。 皆家族で兄弟ですから、そんな間柄で争い合うなんて、それが何の為になるのだろう、悲しいだけじゃ ないかと泣きたくなるのですね。 でも中には乱暴なコビットさんも居て、年中喧嘩している村があります。 何故そこだけ、そんなに乱暴ビットなのかは誰にも解りません。食べ物とか環境とか考え方の違いとか 色々言われていますが、そんな事はどうにでも後から言えるものですから、あんまり関係あるとは思えま せん。 そんな事を理由にするのは人間だけだと、コビットさんは言っています。 そこで乱暴ビットさん達に詳しく聞いてみると。別に誰かと争ったりしたい訳ではなくて、なんだか無 性に力が有り余って、それで暴れるように見えているのだ、との事でした。 乱暴ビットさん達にとって普通の事が、他のコビットさんから見ると、乱暴に見えるようなのです。 例えば乱暴ビットさんは、鋼鉄製のカップをミシミシと握り締めながら、まるでカップを握り潰し、そ こから搾り取るようにして飲物を飲みますが。それも単に握力がやたらと強いだけなのです。 乱暴ビットさんは、着替える度に着ている服を引きちぎりますが。それも単にうでっぷしがやたらと強 いだけで、乱暴ビットさんは優しく扱っているつもりでも、服の方が耐えられないそうなのです。 だから今では乱暴ビットさん達はいつも鎧兜を着ていますけど、それも別に争う為ではなくて、それく らい丈夫でないと、すぐに着る物が壊れてしまうからなのです。 鎧の服は着心地が悪く、動き難いので大変難儀しているそうなのですが。上手い解決方法が見付かって いないので、仕方なくそれを着ているそうです。 だから別に悪気は無いのに、乱暴ビットさん達の意思とは関係なく、誰かに迷惑をかけてしまう事もあ って、怖い噂とか流れていますが。乱暴ビットさん達が、それを臨んでいる訳ではありません。むしろ悩 んでいるのです。そこだけは解ってあげて下さい。 でも中には本当に悪いのがいるから、信じるだけでも困ったりするのですけどね。 やっぱり一人一人をきちんと見る事が、大事だと思います。 ただ念の為に、乱暴ビットさんに会われる時は、丈夫な鎧を着て行って下さい。怪我されないように。
コビットさんは争い事が嫌いですが、楽しいお祭騒ぎは大好きです。 年がら年中酔っ払いながら騒ぎ、そこらじゅうをひっくり返しながら暴れるのも、そんなに珍しい光景 ではありません。 でも心配は要りません。後できちんと片付けて帰りますからね。その辺はしっかりしたコビットさんな のです。 コビットさんは大変な御酒好きで、おめでた好き。余裕があればいつも御酒を飲みたがり、酒屋さんは とても繁盛しています。 有名なコビット酒は、ある岩にある植物を混ぜ、コビットさんにだけ伝わる製法によって発酵、蒸留し て作られるのですが。ある岩とか書いてますように、コビットさん以外には作り方を、まず教えてもらえ ません。 コビットさん達にとって、御酒というのは単なる飲物ではなく、神様から与えられた特別な物なのです。 ですからその製法を変えたりするのも好みませんし、いつも御酒の蓄えがなくならないよう、沢山沢山作 られます。 実に全コビットさんの半数が、御酒作りとその材料集めの仕事をしているそうなのです。 でもコビットさんは大変に飲みますし、いつまで飲んでも潰れると言う事が無いので、それでも足りな いらしいです。 何故そこまで飲むのかは知りませんが、知っても仕方ない事かもしれませんね。 何故って、私達も何故それが好きなのか、なんて聞かれても、困ってしまうからです。 好きだから好き、それ以外に理由が無いから、好きなのでしょう。
コビットさんはお祭好きで、いつも騒いでいたい気持ちを抑えられませんが。ちゃんと自分のやってい る事は自覚して、何かおかしな事をしても、御酒のせいにして逃げるような事はしません。 記憶が無いふりも、酔った勢いとかもしません。きちんと自分のやる事には責任を持って、たまに何か 失敗しても、素直に謝って許してもらいます。 誰かに注意されて、逆に怒り返すようなみっともない真似は絶対にしません。コビットさん達は、何が 本当に恥ずかしい事なのかを、ちゃんと知っているのです。 人間のように自分の事が見えない、いや敢えて見ないような事はせず。コビットさん達はきちんと自分 と向き合い、だからこそ清々しく生きていられるのですね。
コビットさんは夜目が利きますから、あまり昼夜という区別がありません。 月明かりでも充分見えますから、夜がまったく怖く無いのですね。 けれども一人は寂しいようで、コビットさんが一人きりで居る所は、基本的に見かけません。 一人で居るコビットさんは、一風変わった状態のコビットさんで、そういうコビットさんを見付けても、 邪魔しないようにそっとしといてあげて下さい。 コビットさんにもきっと、色々あるのですから。 笑顔が好きでもいつでも笑える訳ではなくて、悲しいのが嫌いでも悲しくなる時があるのです。 それは人もコビットさんも変わりません。 でもコビットさんは基本的に明るくくよくよしませんので、数時間もすると一人で居るのに飽きて、寂 しくなり、そっとコビットの輪の中へ帰ってきます。 その時は皆気付かないふりをして、黙って迎え入れてあげましょう。まるで今までもずっと一緒に居た みたいに、普段の気持ちで接してあげましょう。 それがコビットさんの、当たり前の優しさなのです。
さて、今日は不思議なコビットさんの話をしましたが、いかがでしたでしょうか。 随分変わっていると思われたかもしれません。逆にあんまり人と変わらないと思われたかもしれません。 どう思われても構いません。好きに想い、考えて下されば嬉しいです。 誰も止めません、誰も叱りません、誰も怒りません。好きなように、責任感をもって生きる。それがコ ビットさんが一番大事にしている事ですから、私も皆さんにそれをお勧めしたいのです。 何故って、コビットさんがあんなにも楽しそうだからです。誰だって、楽しく暮したいと思います。 もしからしたら貴方も、いつか何処かでコビットさんと出会う事があるかもしれません。その時は怖が らず、陽気に挨拶してあげて下さいね。そうすれば、きっと素敵なおもてなしをして下さると思います。 コビットさんはお客さんをもてなす事が、とっても好きなのです。 そしてその素敵な体験を、私達にも聞かせて下さると嬉しいです。 コビットさんが何処から来て、何処に居て、そして何処へ行くのかは知りませんが。今日も必ず何処か で楽しんでいると思います。 貴方も今日も楽しんで生きて下さい。 それでは、いつかコビットさんと出会う事を祈って。 |