19.異人9 永続


 モニターから蒼星の映像が消え、そして食用になる蒼人が送られて来た。大柄の蒼人である。

 それは捕食機械が任務を完了した事を意味してもいた。捕食機械の寿命は怖ろしく短い。そしてその命

の終わりに全てを思い出すプログラムが組まれていたのだ。

 何故ならばそれこそがもっとも心の脆弱さを見れる場面だからである。最後であるからこそ、最も大き

な笑いを異人達へもたらしてもらわなければならない。そうでなければわざわざ作った甲斐も無いと言う

ものだ。そしてその目論見は一応は成功したと言える。

 何故ならば。

「くふは、見たかね、諸君。あれだよ、あれこそが脆弱さの極み、自己満足と自己否定の同居と言うもの

だ。真に良い物を作ってくれた。これを作った頭はよほど優秀に違いないよ。ある意味褒めてしまっても

良いのかも知れない」

 艦長がこのように大変満足していたからである。元々この艦長の暇潰しだけに作られた機械であるから

して、それが成功したのならば、これは成功以外に言う言葉は無いだろう。

 しかし艦長の言う優秀な頭は、もうすでに艦長その異人によって、すでに栓が抜かれていたのだが。勿

論それを糺そうなどと言う頭はいない。何しろ相手は艦長なのだから。

 この船の船員は全て艦長一異人の為にあると言って良く、ただそれだけの存在であるとも言える。それ

がこの異人達のシステムであり、システムであればそれに異論を言う者はいない。もし居ても、邪魔だと

処分されるだけである。

 そのような高言を吐くのならば、まず艦長になってから言えと、そう言う事なのだ。

 艦長にもなれない異人が、艦長に文句を言うなどとは甚だ失礼である。

「さて、あの捕食機械はどうするのかね。放っておいて良いのかね。もし蒼人にでも見付かってしまえば、

それはなかなか面白い事になって、むしろ望む所なのだが」

「残念ですが、あの捕食機械は役目を終えれば自動的に、蒼人の言う土とやらに還ります」

「ほう、機械のくせに土に還るのかね。それはどうなのかな、こう頭的には良い事なのかね」

「そうですね、我々頭としては手間がかからなくて良いです」

 先ほどから返答しているのは目立ち頭だろうか。この頭はここぞと言う美味しい場面や、これぞ目立ち

と言う時には間違い無く発言する。そしてその為だけの頭でもある。

 どの頭も本来は捕食機械の管理人では無く、科学者ですら無い。どの頭も艦長の相手をするだけの為に

本来は在り、そして種類が数多いのも、単に艦長を飽きさせない為である。

 艦長の相手をしていずれ栓を抜かれる事を皆夢見て頭になるのであり、その夢が実現すれば頭冥利に尽

きると言うものであった。

「なるほど、それではこれで全て終ったと言う訳か。真に詰まらないな。これはどうしたものか。誰か何

とかしないかね」

 しかしどの頭からも返答は無い。おそらく捕食機械を作ると言うのが最後のネタだったのだろう。それ

が尽きた今、発想の貧弱な頭如きにはこれ以上の新プランなどは企画出来まい。

「何だと、まさかもう無いのかね。まったく困った頭だ。それで頭として良いと思っているのかね。それ

は甚だ間違っていると思うがね」

 そして艦長はいつもの如く頭達に憤慨する。

「ネタが尽きたならば、最早帰るしかあるまい」

 艦長は仕方なく帰還命令を下した。ネタが無いのならば、最早このような辺境惑星に居る必要もないだ

ろう。 



 こうして艦長の命によって、この船は帰還を開始する。

 元々艦長の興味だけでここに居たのであるから、これは別に問題も無く。誰が反対する事も無い。

 それに実際何かが変わる訳でも無かった。

 この異人達は蒼人と直接関わろうとする事は無かったし。その科学力の差を考えれば、蒼人側からも発

見される事も無い。

 更には蒼人に異人を意識させてその反応を楽しむような趣味も無かった。最も他の異人にはそのような

趣味の者がいるのかも知れないが。

 この蒼人と言うのはくだらない事でも大騒ぎしたがる種族である事は、最早明白以上に観測している。

 毎日毎日、詰まらない事で大騒ぎをし、それでこそ大いなる笑いが生まれ、この異人達を惹きつける事

になっているのだ。

 その愚かしさと、脆弱極まりない心は真に珍妙であり、面白い物である。

 だが異人達も蒼人と同じく、飽きてしまえばそれまでの事。同じ種族に関わっていても、笑いと言う物

も鮮度が大事である以上は、あるラインまで達すると興味外になってしまうのだ。

 繰り返す事によって生まれる笑いもあるのだが、この異人達はそれには興味が無いらしい。

「さて、帰るとなれば、さっさと帰るのだ。今すぐ、今すぐ帰れ」

「ギー」

 いつもの如く艦長の独断で帰還準備は速やかに行われた。

 頭達の作業も早い。船の運営の為に作られた頭もいるから、この点にも問題無かった。

「しかし帰ると言っても何処へ帰れば良いのかね」

 そして艦長はまた不可思議な発言をしてしまう。この点、真に優秀な艦長と言えるだろう。

「ギー、我々の母星へ向っておりますです」

「何をやっているのだ、君達は!母星に戻ったら、また退屈では無いか。その点は一体どうするのかね。

君が責任をとってくれるのかね」

「ギー、そう言われましても」

 確かにわざわざ暇潰しにも似た気持ちでここまで来ているのに、それを帰還してしまうと当然また退屈

になるしかない。しかも母星までの間も何もする事も無いので、すでに退屈は始まっている。

「何と言う身勝手な頭達。この私を退屈にさせてしまう気かね。さっさと蒼星まで戻しなさい」

 そう言う訳で、折角飛び立ったにも関わらず、もう一度同じ星へと艦長は船を戻らせてしまった。

 これには頭達も星空を見回しながら、お互いの足の匂いでも嗅いでいるしか無く、心持ふやけ顔のよう

にも見える。だが艦長には逆らえない。いや、逆らわない。

「しかし艦長、先ほども言いましたが。もう他にネタはありませんが・・」

「返す返すも使えない頭達だ!ならばもう一度捕食機械を作って、そしてあの星に送りたまえ」

 何と言う事だろう。またしても艦長の何と無くの一言で、再度捕食機械が送られる事になったのである。

頭達は仕方ないので、設計図を見ながら捕食機械を再び生み出した。今度は割りと面白い姿形をしていた。

おそらく設計図を見間違えたのか、そもそも設計図に描かれた事が間違っていたのだろう。

 今度の捕食機械はどのような不思議な物語を起こしてくれるのだろうか。

 しかしどちらにしてもこの物語はここで終る。

 何しろ艦長は似たような話しは嫌いでからである。である為に、最早これ以上話しを書く事は出来ない。

 願わしくはこの捕食機械がこれ以上無く艦長を満足させ。そして次には本当に異人達を帰還させる事が

出来る事を祈る。

 異人に関わらない方が、きっと幸せなのだ。

                               

                           了   



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