死神の憂鬱１５

終わりは哀愁と共に

「おや、おかえりなさい。ご苦労様でした。それでは、成果を見せていただきましょう」

　相変わらず鬱々とした部屋に通され、僕はまた憂鬱な感じになった。ぼーっとしているとさっさとロ

ーブを剥がされ、それから集めてきた石を取り出して本死神は鑑定を始める。

　本死神はユーリスを眺めながら。

「うーん、まあこれだけあれば上等ですよ。特に我々が５年も梃子摺っていた女性を石化出来たのは賞

賛に値します。まあ、と言っても最早色も質感も抜けてますので二束三文の報酬になりますがね」

　本死神は一つ一つ種別によって小分けしながら、どす黒いほとんどの石をダストシュートのような物

の中にあっさりと投げ捨てている。いかにも詰まらなそうな顔で。

「あっ、っと。勝手に捨てても良いのですか？」

「ええ、ここまで酷いと判定するまでもありませんね。むしろ餌にしても、ケルベロスもお腹を壊すか

も知れませんから。有害な魂に利益はまったく無いのですよ」

「・・・・・・・・・・・」

「不満そうな顔してますね。この仕事をしているともう何の感慨も湧かないのですよ。寂しい事ですが

憐憫の情も無くなってしまいまして。貴方はその想いを大切にして下さい。まだまだこれからの方なの

ですから」

　本死神はもう溜息すら枯れたように淡々と呟く。死神は転職何か出来ないから、余計に辛いんだろう。

僕も今日一日だけで一生分の苦労をして溜息をついたと思うし。これが毎日毎日繰り返されているとし

たら、拷問以外の何者でも無いだろう。永久生き地獄、コキュートスとどっちが辛いだろう。

　ユーリス・モルフェンは何も言えないままに査定が終わるのをじっと待っていた。

「えーと、じゃあこんな感じですね。少なく思われるかも知れませんが、今ではこれだけ報われた仕事

も中々見ない程なのですよ。君のお連れさんもそれはそれは燦々たる結果でしたよ。まあ、君とは違っ

て不真面目極まりないようでしたから、それもしょうが無いかも知れませんが」

　いただいたバイト料は思ったよりは随分少なく思ったけれど、他の死神から聞いたよりは多かった。

どちらにしても今のユーリスにはこの仕事から解放される喜びさえあれば、他には何も要らなかったの

で大して感慨も湧かなかった。

「そう言えば、あいつは今何処に？ここへ戻る時も見なかったのですが。もう帰ってしまった後なので

すか？」

「ああ、君のお連れさんね。言ったでしょう、不真面目極まりなかったと。今ごろはケルベロスに齧ら

れている頃でしょう。たまにはゴミのような魂よりはマシな餌を与えないと怒りますからね。あんな類

でも、我々は人間よりは霊格が高く出来てますので。まあ、心配しなくても半分は残しておきますから

しばらくすれば動けるようになるでしょう」

「・・・・・・・・・・・・」

「まあ、責任は人間よりも遥かに重い仕事ばかりですので。ではお帰り下さい。貴方は優秀ですので、

他の仕事を探された方がよろしいでしょう。死神だけにはならないように。解ったでしょうが、皆さん

思われるままの陰鬱な仕事ですので」

　本死神がそう宣告するように言い終わると、僕は見慣れた校舎の前に佇んでいた。

　例の友人の姿を見る事はそれ以後無かった。

　それから僕は卒業し。

「こちらへおかけ下さい」

　今ではあの死神の座っていた場所でバイトの面接をしている。半身を失った友人と共に。

　そして僕達は憂鬱に取り込まれている。　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了

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