ある島にて・・・（三十三日目・様相夢想）

三十三日目（様相夢想）

　水で頭が冷えていく。

　さっきまでのは淡い幻覚だったような気もする。

　なのでそう言うことにしておこう。

　それが人生の奥義だ。

　と言うことにもしておこう。

　水にぷかぷか浮いていると。

　何だか考える事がつまらなく思えてくる。

　と言うよりも考えたくないだけなのだが。

　服を乾かすまでどうしようとか。

　代わりの服も、身体を拭くタオルすらないなとかとか。

　やっぱり少し憂鬱だった。

　水にぷかぷかの魔力も憂鬱の前には打ち消されるらしい。

　

　取り合えず身体を擦り合わせて垢を落とす。

　もう何が垢なのか汚れなのか解らないくらいだ。

　また文字通り一皮向けた感じだ。

　

　湖からぬるりと抜け出る。

　張り付いた服と滴る水滴が少し気持ち悪い。

　動くたびに服がぬるぬると巻き付いて邪魔になる。

　しかたがないので服を脱いで握り絞る。

　そして着直す。

　べたべたしているが少しだけマシになった気もする。

　もう火も無いので乾かす事も暖を取る事も出来ないのが辛かった。

　それから森に分け入る。

　ここからだと瓜の所が近いはずだ。

　半時ばかり我慢して歩く。

　靴もぐじゅぐじゅして変な感触。

　少しだけ面白かったが。

　森が開けるとぱちぱちと木の爆ぜる音が聴こえてきた。

　ぬるい風が漂ってくる。

　そして香ばしい良い匂いがした。

　火の前にでっかい影が一つ。

　影は何かに気付いたようにこちらを振り向きながら。

　よう、と声をかけてきた。

　横に座ると。

　牛蒡は良かったなと良いながら焼き栗を差し出して来た。

　気をつけないと栗が飛んでくるぜ、こいつはミサイルだと言いながらがははと笑う。

　西瓜達は例の船。

　茄子胡瓜もお仕事らしく他には誰も居なかった。

　しばらくは焼き栗食べに専念したい。　　　

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